いっそ白髪頭も、しみだらけの皮膚も、皺だらけの膣も、年上の友人たちに貰えたらいいなあと思います。年上の女の度胸と経験が、ことあるごとにわたしを救うでしょう。

それから若い友人たちに、つやつやの皮膚や、傷だらけの腕や、うるおいのある膣を貰えたら、どんなにいいでしょう。若い女の葛藤も、悩みも、未経験のゆえの無謀さも、わたしに戻ってくるかもしれません。
そしたら、自分じゃなくなってしまうかもしれません。しかし、そんなことでなくなってしまうほどの自分とも思えません。むしろ女たちの歴代のいのちを累積し尽くし、くっきりとまとめあげたような、強い自分になるでしょう。
それなら女ばかりでなく、男からも、何か貰って身につければ、男のチカラがおっ立つのではないか。
そう思って、親しい男の服を貰い受けて着てみたことがあります。すると、そこにしみついたニオイは、残り香というより臭気であり、わたしは正常な気持ちを保つことができず、たいへん惜しかったのですが、そうそうに脱ぎ捨てました。
やっぱり、女にかぎります。

図書(岩波書店)2008年8月号、p.43 伊藤比呂美「古着のチカラ」

ずいぶんと欲張ったもんである。でもって、臭気を我慢するくらいなら男のチカラなんていらないよ、てんだから。男、誰か反論してやってくれ!

080904-128