有川浩『ヒア・カムズ・ザ・サン』★☆(新潮社、2011-1)

『ヒア・カムズ・ザ・サン』★★と『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』★の二篇収録。

自分からではないにしろ有川浩本とはほとんどつき合ってきたが、この本は駄目だった。特に二つめの『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』は。

 人生で特別に大事な場所にいる人たちを救うことができないなら、僕が人の秘密を暴いてしまう力を持って生まれてきた意味なんて何一つないじゃないか。(p.168)

生まれてきたことに、実は(この「実は」は変だけど)意味なんてないし、もちろん、特別の力を持っているかどうかなんてことは、これっぽっちも関係のないことだ。

言いっ放しにしてしまうと誤解されてしまうかもしれないが、ま、そう。意味づけするのは勝手だし、悪いことではないのだけど、でもこう書かれてしまうと反発したくなってしまうのだな。

「お前の気持ちも分かるし、古川の気持ちも分かる」
 岩沼はケチャップライスをかき込みながらそう答えた。
「なかなか困った親父さんみたいだから、嫌気がさしてるお前の気持ちも分かる。けど、許せるもんなら許してやったほうがいいって古川の気持ちもわかる」
「どうして許したほうがいいんですか」
「許してやれないままいつか死なれたら、お前が自分を責めるからだよ」
 閉じていた目をふと開かされた気分になった。
 今まで、晴男の肩を持つ真也に苛立っていた。半ば裏切られたような気持ちでいた。
「そんだけ食い下がるのは親父さんのためじゃない。お前のためだ」
 でも、と力なく反駁が漏れる。
「今すぐ許すなんてできない」
「お前みたいな小娘にはまだまだ無理だろうな」(p.175)「反駁」に「はんばく」のルビ

あらら、私、小娘にされちゃったかな。

「謝ってほしいだけなんです。嘘を吐いていたことを。−−一言でも謝ってくれたら……」
「こうしてくれたら許せるのに、こうだったら許せるのにってのは子供の側からは正当な言い分だよな。だけど、親のほうがガキだったら仕方ねえだろ。だから丸ごと諦めるんだよ。諦めりゃそのうち『まあいいや』ってなる。『まあいいや』って許せるタイミングが来る」(p.176)

あー、これも駄目だ。このあとのp.187あたりにある真也の妹の必死の嘘の場面も、私には受け入れがたいのだった。

気を取り直して、カオルの父親がそんなにはひどくない(こっちには影の父親?まで出てくるのだけど、まあ、これならいいか)『ヒア・カムズ・ザ・サン』からでも……と思ったが、目が曇ってしまうとどれももうどうでもいいかという気分になっている……。

「すごいよねぇ、珠子の地雷踏んじゃった新米を執り成せるんだから」(p.15)

こういうちょっとした機微をまとめてしまう力は有川浩ならではなのだけど、今回は三ヶ月前まで真也の担当だった作家がごねた最初の場面から、えーっと思ってしまったのだった。ま、しゃあないよね。