2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

小説:角田光代、絵:松尾たいこ『Presents』(双葉社、2005年)

六歳のあのときは、なんと身軽だったのか。あれだけの荷物で、地の果てまで逃げられると思っていたんだから。だらしなく中身の飛び出したランドセルを前に、私は笑い出す。笑いながら、ランドセルをひっくり返して、たった今詰めこんだ中身を全部床にばらま…

小川洋子『貴婦人Aの蘇生』(朝日新聞社、2002年)

「扉の前にもたもたしている間に、いつだって僕は用なしになる。僕を待っていたはずの人でさえ、いいのよ別に無理して入ってこなくても、って言うんだ」(p.136) 強迫性障害を患っているニコは、部屋に入る前に必ずある儀式をしなければならないのだった。…

津村記久子『ポトスライムの舟』(講談社、2009年)

「二十九歳の今から三十歳のこの日までをそっくり懸けて世界一周か。なんかこう、童話でようある感じでもあるよね。その一年間は加齢を免除されるというかさ。違う世界に行って帰って来たら、ほとんど時間が経ってませんでした、的な。うまく言えんな。まあ…

佐高信『手紙の書き方』(岩波アクティブ新書11、2002年)

多分、いま、手紙は書かれなくなっているのだろう。即時コミュニケーションの手段が発達して、手紙はまだるっこしい感じを持たれるているからである。しかし、手紙でしか伝えられない気持ちもあるのではないか。私はこの本で文字通りの「手紙の書き方」を伝…