津田大介『Twitter社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』(洋泉社 新書y、2009年)

このダイナミズムを更に突き詰めたのがツイッターだ。ツイッターはリアルタイム性が高く、気軽に他人の発言にツッコミを入れやすい構造になっているため、何かをつぶやいたあと、即座に反応が返ってくる。ある種メッセンジャーやチャットのような時間感覚と…

角田光代(文春文庫、北尾トロ『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』の解説)

本書を読んでいて思うのは、わけのわからない人間が多すぎる、ということである。わからないのは事件ではなく、人間なのである。(p.330) うーん、確かに。でもその事件は、わからない人間が起こしてるんで……。

D・カーネギー(山口博訳)『人を動かす[新装版]』(創元社、1999年)

およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。(p.27) この本には確かに「人を動かす」秘訣が沢山書いてある。具体…

香山リカ『文章は写経のように書くのがいい』(ミシマ社、2009年)

とくに私の場合はすべて健康保険診療なので、どうしてもたくさんの患者さんを診なければならない。「一回二万円払ってもいいから一時間くらい話を聞いてほしい」という患者さんは自由診療の精神科医に紹介して、「医療費は安いけれどひとりにかけられる時間…

角田光代『対岸の彼女』(文春文庫、2007年)

父に会ったってナナコは何も言わないだろうに、自分は何も必死に隠しているんだと、うしろの窓をふりかえり、遠ざかるタクシーを見つめて葵は思う。ナナコは何も言わない。客寄せのために内部をごてごて飾りつけしたタクシーに乗っている父を見ても、せこい…

角田光代『予定日はジミー・ペイジ』(白水社、2007年)

「私、ひょっとしたら子どもできたの、うれしくないかもしれない」(p.20) これは最初の方で主人公が、夫に、自分の気持ちを打ち明ける時のセリフ。けど本当は「ひょっとしたら」「うれしくないかもしれない」んじゃないものだから、すぐに「だからねえ、私…

小説:角田光代、絵:松尾たいこ『Presents』(双葉社、2005年)

六歳のあのときは、なんと身軽だったのか。あれだけの荷物で、地の果てまで逃げられると思っていたんだから。だらしなく中身の飛び出したランドセルを前に、私は笑い出す。笑いながら、ランドセルをひっくり返して、たった今詰めこんだ中身を全部床にばらま…

西部劇小説は題名だけ見ればそれとわかる、という発見をしたのを、そのときから半世紀が経過しているにもかかわらず、いまでも僕は記憶している。積み上げてあるペイパーバックのタイトル背文字を上から順に読んでいき、これは西部劇だと思ったら、それを列から抜き出してみる。ほぼ間違いなくそれは西部劇小説であり、表紙絵を鑑賞したのち、西部劇だけを積んでおく列に加えていく。単なる読書とは、内容も方向も明らかに少しだけ違う言葉体験を、十歳前後の僕は楽しんでいたようだ。

図書(岩波書店)2008年11月号、p.33 片岡義男「散歩して迷子になる 8 良き刺激は大いにかさばる」読書以前とはいえ、これは相当うらやましい言葉体験だ。081211-219

つまりぼくも春香もどちらも同じくらいのちっぽけな過去しか持っていないのだ。どこもでっぱってなくてどこもへこんでいない、とりかえたってかまわないくらいの月並みな十九年間。それなのに、そのちっぽけな記憶の山をふくらませて掘り起こして、勝手に意味までつけ加えて、手痛く傷ついたりとんでもない影響をおよぼされたふりをしている。ふりをしていることにも気づかずに、そのちっぽけな過去に取り囲まれてその中で呼吸しようとしている。

角田光代『カップリング・ノー・チューニング』(河出書房新社、1997年、p.143)人生ってそんなものかと思っていましたが……。10年前なんで「十円玉が次々と飲みこまれてゆく」公衆電話が最後の場面。「ぼく」は10年経った今、何してんのかな。知りたいという…

では、秀吉は何のために刀狩りをおこなったのだろうか。帯刀権を武士だけに限定し、身分の区別をはっきりさせるため、というのが藤木氏の考えだ。つまり、武器そのものの没収ではなく、武器を携行する「権利」を規制することが、刀狩りの目的だったのだ、と。

帯刀権という「権利」の制限こそが問題だったという指摘は、とても示唆的である。それは、近代国家の形成について考えていた私にも大きなヒントを与えてくれた。おそらく、帯刀権の問題は藤木氏が考えている以上の射程の広さをもっているだろう。帯刀権は、…

卓也のその言葉を聞いて、のゆりは一瞬、ぞくりとしたのだった。世界がくるりと回転して、目の前に現れたのは今までと同じ世界のはずなのに、ところどころのものの、色や形がいつの間にか入れ替わってしまった、それでもおおかたのものは元通りで、じっと見ているうちに、何が入れ替わって何が元のままなのか、区別がつかなくなっていってしまう、そんな感じだった。

川上弘美『風花』(集英社2008年、p.249)くるりとは回転してないのだけど、どこか以前と違う世界にいるような気分になることがあった。くるりと回転する場面に遭遇したのなら、その謎にも迫れそうな気もするのだが、そもそも私のことだから、くるりと回転し…

「正しいことだとという自分の気持ちに反した行動を、私たちは『自分への裏切り行為』と呼んでいます。私が言ってきたような自分への裏切り行為、つまり自分にそむく行為は、ごくありふれたものです。しかし、少し深く掘り下げると面白いことがわかってきます」

彼はみんなを見回した「自分にそむくということは、闘争へむかうということなんです」 アービンジャー・インスティチュート、門田美鈴訳『2日で人生が変わる「箱」の法則 すべての人間関係がうまくいく「平和な心」のつくり方』(祥伝社、H19、p.122)これだ…

本書に登場するマッチラベルは、不思議に思われるだろうが全てメイド・イン・ジャパンである。特に明治末期から大正初期あたりが最盛期で、国内向け以上に海外へ輸出しており、華商などを通して中国、インド、ロシア、東南アジア、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカまでも行き渡っていた。マッチとしての機能も優秀であったし、輸出用のものは仕向け先の嗜好、生活習慣に合わせて描いた図案は、日本独自の浮世絵の技法を身につけた絵師の巧みさもあって、当時、独特のブランド柄を築き上げ好評を博していた。ただ所詮、低賃金のうえ家内手工業的

加藤豊所蔵編『マッチレッテル万華鏡』(白石書店、2001、p.3)マッチラベル話の続き。この本に収められたマッチラベルは約6000点だそうで、驚きの意匠が並んでいる。 自転車を漕ぐ象(どんな自転車なんだ!と思うが、ペダルとかはよくわからんのだな)、体…

なんでこんなに淋しいんだろう、とあたしは思った。この淋しさは時間がたてば薄らぐと知っていたけれど、そんなこと知っていても、なんの役にも立たなかった。ただ淋しかった。あんなに彼のことを好きだったのに、と一瞬思ったが、それが嘘なことも知っていた。あたしはそれほど彼に夢中ではなかった。だって、彼もあたしに夢中になってくれなかったから。あなたが彼に夢中にならないから彼もあなたに夢中にならないのよ、と忠告してくれた友だちもいたけれど、それはなんだか、違う。あたしは夢中になる用意ができていたのに。いつだって、できてい

川上弘美『ざらざら』(マガジンハウス、2006、p.126)23ある収録作品の『淋しいな』から怪しげな「籠おばさん」の出てくる短篇もあるが、まあ、普通の恋愛小説集である。どうでもいいことなのだが、この本を読んでいて、寅さん映画を観てる気分になった。内…

「蛸は海に戻らなかった。蛸はすでに人間と成り果ててしまったからである。蛸の二年は人間の二百年。たいした年月でもないに、蛸はたったの二年で人と成り果てた。すでに蛸の生涯はよう思い出せぬ。人間であるおれは女が好きだ。女はやわらかくて冷酷で何も考えていなくてかわいいものだ。女をよがらせてこその男である。これを旧態依然と言い捨ててはいけない。おれにはおれの考えがある。貴様は貴様の道をゆけばよい。おれにはもう海底という拠りどころがなくなってしまったのでそぞろ歩くばかりだ。人間の境涯は、つらい。蛸に戻りたい。しかしも

川上弘美『龍宮』(文藝春秋、H14、p.28)8ある収録作品の『北斎』から何勝手なことをでっち上げて、と思わず言いたくなるわけのわからん物語集(『蛇を踏む』もこんなだったか)。出てくるのは、人間もむろんいるのだけど、人間ではない。なんだけど、でも…

「見た人に犯行を止めてほしかった」

朝日新聞朝刊6月8日に起きた秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大(ともひろ)容疑者が、警察の取り調べに対して、事件当日携帯サイトに書き込んだ「犯行予告」について、こう語ったのだと。「色々書いているのに、誰も見てくれない」って、携帯サイトのことはよ…

この百年、カメラとレンズは飛躍的に進歩した。逆説めくが、それは「レンズつきフィルム」に使われたような、優れたフィルムが存在しなかったから生まれた進歩ともいえる。フィルムの限界を、レンズやシャッターが懸命になって持ち上げてきたのである。

神尾健三『めざすはライカ! ある技術者がたどる日本カメラの軌跡』(草思社、2003、p.284)若いときにミノルタにいた著者の語る、世界に冠たる日本製カメラの歴史。ライカをめざしていたら写ルンですになっちゃった。と言ってるわけではないんだけどね。080…