喜多川泰『「手紙屋」〜僕の就職活動を変えた十通の手紙〜』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2007-1)

私は、希望される方と“手紙のやりとり”をすることを仕事としています。(p.22) 『君と会えたから…… The Goddess of Victory』と同じく、これも小説形式の自己啓発本だ。で、今度は「手紙屋」だって。確かに、手紙形式なら、自己啓発の方法や考え方は伝えや…

アズマカナコ『捨てない贅沢 東京の里山発 暮らしレシピ』★★★(けやき出版、2011-1)

「捨てない」のに、過剰なものが一つもない(暮らしはそうなんだろうけど、この本にも)。それは「暮らしレシピ」だからなのだろうか。このつましさ(「贅沢」と題名に付けているのだから「つましさ」だと正反対になってしまうが)は何ともかわいらしくて、…

喜多川泰『君と会えたから…… The Goddess of Victory』★★☆(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2006/2007-7)

青春小説仕立ての自己啓発本。無理矢理自己啓発部分を押し込んでいるので、ぎくしゃくではあるのだが、高校生の恋にミステリー的要素も絡めて悪くないつくりだ。若い人がとっつきやすいように、と考慮してのことだろう。適当に書きだしてしまうと説明不足は…

渡辺京二『黒船前夜 ロシア・アイヌ・日本の三国志』★★★★☆(洋泉社、2010-1)

刊行されて二年以上も経っているというのに買った本はまだ「初版」だった。こんな素晴らしい本(ただし索引がないのはいただけない)がと思うが、やはり小説ほどには売れないのだろう(って、私とて手を伸ばすのは三文小説ばかりだからなぁ)。 翻って考えれ…

有川浩『ヒア・カムズ・ザ・サン』★☆(新潮社、2011-1)

『ヒア・カムズ・ザ・サン』★★と『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』★の二篇収録。自分からではないにしろ有川浩本とはほとんどつき合ってきたが、この本は駄目だった。特に二つめの『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』は。 人生で特別に大事な場所にいる…

姫野カオルコ『ハルカ・エイティ』★★★(文藝春秋、2005-1)

好きな小説か、と問われれば答えに躊躇してしまうかもしれない。が、あまりにも多くのまっとうなことが書かれていて、とても無碍にできない。目下の、私の姫野カオルコ様、であるし……。なのだけれど、引用となると考え込んでしまうんである。で、場違いかも…

姫野カオルコ『ドールハウス』★★★☆(角川文庫10415、H9-1)

『人形の家』なのだから主人公の理加子は最後に家を出るのである。そこは同じだが、理加子の家出は夫から自由になるのではなく、さらに根源的である両親の呪縛からの逃避だ。 私には理加子を、決して奇異な、特別な少女として描いたつもりはない。おそらく現…

小栗左多里『プチ修行』★★☆(幻冬舎文庫、H19/H22-3)

修行の途中、座禅を組みに行ったお寺で気がついたことがある。お寺にいる人が誰一人、幸せそうな顔なんてしていないのだ。長年修行している人も、幸せどころか世界中の不幸をしょって立っているみたいな感じである。どう考えてもその辺で犬を散歩させている…

高島俊男『座右の名文 ぼくの好きな十人の文章家』★★★(文春新書570、2007-1)

この本の成り立ちがまえがきに書いてある。『本の雑誌』に書いた短文がきっかけでできたのだそうだ。そして、その短文も掲載されている。で、これが滅法面白い。 小生が、最も相性がいいと感じるのは斎藤茂吉である。つねに文章が正直で、鈍重でありながら爽…

三浦しをん『神去なあなあ日常』★★☆(徳間書店、2009-6)

彼らの口癖は「なあなあ」で、これはだれかに呼びかけているのでも、なあなあで済ませようと言っているのでもない。「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」ってニュアンスだ。そこからさらに拡大して、「のどかで過ごしやすい、いい天気ですね」という意味まで…

辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』★★☆(講談社、2009-5)

結婚することが人生の前提にあり、未来に能力を繋げる仕事なんか望みもしない。経済的にも精神的にも一人立ちできない女たちにとって、結婚は間違いなく唯一の成果だった。その価値観しかないから、三十代以上夫なし子供なしの女性を指す「負け犬」の言葉は…

姫野カオルコ『ツ、イ、ラ、ク』(角川文庫14581、H19-2、解説:斎藤美奈子)★★★★☆

どう書き残しておけばよいのか……まとまりがつかないので、いきなりハイライトシーンを。なんで、本書を未読の人は絶対に読むべからず。ここに至るには、遠回りにも感じられる小学生時代の記述からすべてを頭に入れておかなければならない(と、私が言うこと…

大沼紀子『真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ』(ポプラ文庫2011-10)★★☆

期待しつつ前半を読み進むが、後半に失速、というか、あくまで私の好みの問題なのだが、この手の話はどうも、なのだった。托卵娘?の高校生である希美の宿(托卵先)となったパン屋の二人と、そこにやってくる人物たちが織りなす現代版人情話みたいなものが…

外山滋比古『日本語の作法』(新潮文庫8948、H22-1)★★☆

かつて、大正の中頃のこと、「とてもきれいだ」というような言い方が始まって、心ある人は心を痛めたという。「とても」は、あとに否定のことばを伴うものときまっていて、「とても考えられない」のようになるのが普通であるのに、「とてもうまい」のように…

『ナチュリラ別冊 冷えとりガールのスタイルブック』(主婦と生活社、2010/2012-6)?★

(服)ケガって偶然と思いきや、必然なんですね。冷えとりの「毒出し」は、熱が出たり、湿しんが出たり、下痢をしたりというように、症状で出る場合もあるけれど、ケガで出ることもある。これは、体験しはじめないと、なかなかわかりづらいですが……。(p.91…

姫野カオルコ『もう私のことはわからないのだけれど』(日経BP社、2009-1)★★★

「赤ちゃんはまだなのって、結婚を祝う気持ちで言っても、辛い気持ちになる人がいる」ってことは有名になったけど、病気になった親のそばにいないってことは、いけないことに、まだ、なってるから。(p.79) いいと思わないのになぜするんだ、って訊く人がい…

進藤義晴、進藤幸恵『幸せになる医術 これが本当の「冷えとり」の手引き書』(PHP研究所、2011-1)?★★☆

病気のほとんどは、食べ過ぎが原因で起こります。ろくに嚙まないで食べると消化吸収が悪く。栄養が十分体に入らない。30分かけてゆっくり食べる暇がない時は、「食事を抜かせ」という合図だと思うこと。 絶食すると、内蔵の毒がよく出ます。(p.19)「嚙」に…

内田聖子『あなたのようないい女』(日本文学館、2010-1)★★☆

「明星」は金食い虫で、鉄幹は惚れっぽい男であった。 しかし、そんな夫への嫉妬、憎悪の念が、彼女の情念となって独自の歌境を深めていく。晶子は、鉄幹なしでは歌をよむことも、子供を産むこともできないのであった。その点で、晶子のいない鉄幹は存在しう…

姫野カオルコ『終業式』(角川文庫、H16-1、解説:藤田香織)★★★☆

まだ二冊目だが、姫野カオルコ中毒になりそう。というほどには何もわかっていないのだけど。ま、それは解説の藤田香織も言ってることで、要するにお楽しみが沢山残っていることなのかと……。 この物語は、これまでの著者の作品の中で、一番「普通」の話です。…

百田尚樹『風の中のマリア』(講談社文庫、2011-1、解説:養老孟司)

★★☆ オオスズメバチは、幼虫時代は肉食だが、成虫になると逆に肉などの固形物は一切食べられなくなる。そのため樹液や花蜜が食物となるが、最高の栄養源は幼虫の出す唾液だった。そこには特殊なアミノ酸化合物が含まれていて、これのお陰でオオスズメバチの…

有川浩『ラブコメ今昔』(角川書店、H20-1)

★★☆『ラブコメ今昔』『軍事とオタクと彼』『広報官、走る!』『青い衝撃』『秘め事』『ダンディ・ライオン〜またはラブコメ今昔イマドキ編』の6篇からなる短篇集。 誰か一人でも気づいてくれたら。その思いを拾ったのがまさか−−防大出エリートというだけで叩…

有川浩『図書館危機』(メディアワークス、2007-1)

★★☆ 検閲を根本的に排除するためには良化委員会と図書隊が同格の国家公務組織になる必要がある、というのが『未来企画』延いては慧の主張である。 同格の国家行政機関、それも文科省機関になることで法務省と検閲の正当性そのものを争うという慧の思想を実現…

重松清『卒業』(新潮文庫8075、H18)

表題作の他『まゆみのマーチ』『あおげば尊し』『追伸』を収録。★★★『まゆみのマーチ』★★★ 『あおげば尊し』★★☆ 「ひとに迷惑をかけるんは、そげん悪いことですか?」 先生がそれにどう応えたのかは知らない。母は教えてくれなかったし、父は家に帰ったあと…

森絵都『宇宙のみなしご』(角川文庫16324、H22年)

★★☆ 「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。自分の力できらきら輝いていないと、宇宙の闇にのみこまれて消えちゃうんだよ、って」(p.174) いきなりキモを引用してしまったが、このセリフは四人…

『佐野洋子の単行本』(本の雑誌社、1985年)

★★★ 例えば草刈正雄なんか私を追いかけて来るのである。嫌だと云っても私に云い寄るのである。私は断固として拒否する。もう拒否する。正調二枚目はたいがい私に云い寄る。 藤竜也なんかはちょっと違う。私は藤竜也が好きで胸がドキドキするが、どうも難しい…

パット・ムーア『私は三年間老人だった 明日の自分のためにできること』(朝日出版社、2005年、木村治美:訳)

原題/Disguised: A True Story by Pat Moore 『変装−−私は三年間老人だった』(1988年)の復刊。ロジャー・コールマンの推薦文、チャールズ・ポーン・コンのプロローグとエピローグ、著者の「二十五年を振り返って」というあとがきも付け加えられている。訳…

梨木香歩『西の魔女が死んだ』(新潮文庫な-32-2、H13/H19-43)

『渡りの一日』併録。解説:早川司寿乃 ★★★★ 「私の祖母の場合は、自覚した魔女ではありませんでした。最初はね。ですから何の準備もしていないときに、そういうものが突然見えるというのは、祖母には大変つらいことだったのです。よく訓練された魔女にはそ…

林望『イギリスはおいしい』(文春文庫、2005年)

★★★1991年の日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。引用は、迷いに迷って三(四)つだけ選んだ。そのうちの一つは私の酒嫌いを代弁してくれているもので、これは私用にするには若干の手直し必要なのだが、まあ大方はこんなところなので、長い引用になったが、酒…

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』(角川文庫、H21年) 解説:辻原登

沈黙が落ちた。しばらく逡巡してから藻屑は、ものすごく大事な打ち明け話をするように、あたしの耳元に色のない唇を寄せて、小声でつぶやいた。 「ぼく、おとうさんのこと、すごく好きなんだ」 「うへぇ!」 「……なに、うへぇって」 「いやなんとなく」 「好…

篠田節子『百年の恋』(朝日文庫、2003年) 作中育児日記:青山智樹 解説:重松清

真一は体をひねり、その未知の物体を見た。 「あ……」と小さく声を上げていた。それはエイリアンではなかった。 確かに育ちすぎているのだろう。両手を開いて泣いているそれの顔は、真一があまりに馴れ染んだ顔だった。女の子だというのに、だれもがふりかえ…