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修行の途中、座禅を組みに行ったお寺で気がついたことがある。お寺にいる人が誰一人、幸せそうな顔なんてしていないのだ。長年修行している人も、幸せどころか世界中の不幸をしょって立っているみたいな感じである。どう考えてもその辺で犬を散歩させている…
期待しつつ前半を読み進むが、後半に失速、というか、あくまで私の好みの問題なのだが、この手の話はどうも、なのだった。托卵娘?の高校生である希美の宿(托卵先)となったパン屋の二人と、そこにやってくる人物たちが織りなす現代版人情話みたいなものが…
子供の頃に読んだお気に入りのSFに、ゼナ・ヘンダースンの「ピープル」シリーズというのがあった。宇宙旅行中に地球に漂着し、高度な知性と能力を隠してひっそり田舎に暮らす人々を、そこに赴任してきた女性教師の目から描くという短編連作で、穏やかな品の…
『大きな引き出し』『二つの茶碗』『達磨山への道』『オセロ・ゲーム』『手紙』『光の帝国』『歴史の時間』『草取り』『黒い塔』『国道を降りて…』の十篇からなる「常野一族」を扱った連作。常野という言葉が示すように、彼ら「常野一族」は特殊な能力を持ち…
太田 先ほど中沢さんが、日常のささやかなコミュニケーションも誤解だらけだと言いましたが、そこにはもう一つ大事なことがあると思うんです。僕が何か話しても、受け止める相手には必ず誤解がある。その誤解をなくそうとやりとりをするのがコミュニケーショ…
表題作の他、『揚羽蝶が壊れる時』『冷めない紅茶』『ダイヴィング・プール』を収録。『完璧な病室』 「電気をつけましょうか。」 「いいえ。このままにしておいて下さい。」 「ふ、服は脱いだ方がいいですか。」 「はい。あなたの、胸の筋肉で抱いて欲しい…
「君の電話番号は何番かね」 「576の1455です」 「5761455だって? 素晴らしいじゃないか。1億までの間に存在する素数の個数に等しいとは」 いかにも関心したふうに、博士はうなずいた。 自分の電話番号のどこが素晴らしいのか理解はできなくても、彼の口調…
じゃあ、どの「あのとき」が、きみのほんものの「あのとき」なのか。子どもとおとなは、まるでちがう。子どものままのおとななんていやしないし、おとなでもある子どもなんてのもいやしない。境い目はやっぱりあるんだ。でも、それはいったいどこにあったん…
「治療、治療。あははは」(p.259) このシリーズは、まず映画の『イン・ザ・プール』を観て、そのあとに『空中ブランコ』。半年後の今、一番先に読むべきこの『イン・ザ・プール』。って、順番、間違えたよなぁ。いいんじゃない、あははは。
「扉の前にもたもたしている間に、いつだって僕は用なしになる。僕を待っていたはずの人でさえ、いいのよ別に無理して入ってこなくても、って言うんだ」(p.136) 強迫性障害を患っているニコは、部屋に入る前に必ずある儀式をしなければならないのだった。…
大崎善生『パイロットフィッシュ』(角川書店、H13年、p.79)学生時代からの先輩のI氏が8日に亡くなったという知らせを昨日聞いたのだが、このことは私の中ではとっくに整理を付けていたはずのことだった。遡れば、もう治る見込みがないと聞かされた半年前(…
青春と読書(集英社)2008年12月号、カラー口絵 大竹昭子「「写真家」を名乗る人」石川直樹『最後の冒険家』の紹介(宣伝)文。「受容することが絶対条件」? 写真の原則も思想も知らないで写真を撮っている私って……。081217-225
asta*(ポプラ社)2008年11月号、p.74 大島真寿美「極私的電影随想 3 記憶の鍵」そんなことがあるわけないんで、とじいさんになった私は思わず一蹴してしまったのであるが、うんにゃ、そういや、若い時分にゃ3時間近い映画(昔は長尺もんもザラだった)を続…
少女:Mine, too. 私のでもあるわ この少女のセリフに字幕屋は、はたと困った。わずか一秒なのだ。これまでも何度か書いたが、字幕は一秒=四字が原則。ここも四字以内で表現しなければならない。右の直訳は七字。末尾の「わ」を削除しても六字。まだ多い。…
恩田陸『夜のピクニック』(新潮文庫、H18、p.290)恩田陸はプラモデルも作る? 高校生の男子だからプラモデルを持ってきただけ? ほへー、作家ってすごい、とくだらないとこで感心してしまう。40年以上前にはよくぶち当たったけど、出来の悪いプラモデルっ…
一冊の本(朝日新聞出版)2008年10月号、p.5 ピーター・オコーノ「語られなかった歴史1 ある英字紙の111周年」「戦争責任」を検証しちゃうんだって。「日本政府の公式見解」や「事実上の宣戦布告として受け止められ」ていたのだとしたら、検証してもらった方…
毎日新聞2008年10月31日、19面 荻原浩「極小農園日記 3 種まきというより豆まき。はやる心抑え気味に」「荻原浩」続きは、もちろんたまたま。普段読まない毎日新聞を、それこそたまたま手にしたからで……。あ、でもネットでも読めますね、これ(http://mainic…
荻原浩『明日の記憶』(光文社、2005年、p.141)記憶というのは実に奇妙なもので、私もアルツハイマーではないかと思うような経験をいくつかしている(ど忘れ程度のものではなく、もっととんでもないもの。書くと長くなるし、みっともないのでやめるが)。記…
朝日新聞2008年10月2日、30面 つなげる 「生きる」瞬間 谷川俊太郎さんの詩にネット投稿 10ヵ月で4000件超 「コトバの波紋、面白い」谷川さん語る(署名記事:大井田ひろみ)ミクシィに立ったトピックで広がり、本も生まれた、んだって。引用はしたけれど、…
(注:「自己愛」に「ナルシズム」のルビ) 図書(岩波書店)2008年9月号、p.14 岡井隆「文字愛について」自分の字を好きになれる人がいるなんて、びっくりである。なにしろ私ときたら、小学校の高学年になってこの方、大げさでなく、自分の字と果てるともな…
朝日新聞2008年9月13日、2面 ひと欄「還暦に憲法への思いを歌う沢田研二さん(60)」(文:藤森研)静かに通る言葉を言える人になるのが、まず私の場合は難しい。って、すぐそんなふうに話をもっていくからダメなのね。 「我が窮状」 作詞:沢田研二、作曲:…
ポンツーン(幻冬舎)2008年8月号 No.119、p.90 岡田利規「忘れられない贈り物 辞書と献辞」ナニこの文、と投げ出すほどには長くなく(たった2ページ)、だからか、また最初に戻って、で、計5回は読んでしまったような。「しかし人間、してやったことは忘れ…
小川洋子『ミーナの行進』(中央公論新社、2006年、p.114)本には寺田順三(装画、装幀)のマッチラベルも色付きでページの合間にいくつか載っていて、これはこれで素晴らしいのだが、奇抜さでいったら実際(といってもすでに骨董品みなたいなものか)のもの…
しかし、すべての人が同じ数だけ感情を持ち合わせているわけではない。 言葉が関係するのかもしれない。 名前のつかない感情は存在しないに等しい。言葉を知らなければ、自分の中にある感情は感情として立ち上がってはこない。そういう場合は、何らかの行動…
なんて楽しそうなんだろう。 巽はその表情に打たれた。 思いつくままに身体を動かしているのだろう。ポーズそのものは稚拙だし、子供みたいにあどけない。けれど、その動きは伸びやかで、同じ世代の巽から見ても、天真爛漫な若さに溢れていて、ずっと眺めて…
その間に、当初は、〈防犯課〉だった二人の所属部署も、何年かのち〈生活安全課〉に変わった。同僚の五本松小百合も、最初は〈私服の婦人警官〉だったが、今ではれっきとした〈女性刑事〉である。公衆電話、赤電話はしだいに姿を消し、携帯電話がこれに取っ…
例によって女ともだちとの真夜中の電話である。ものに対する欲望、「欲しい」という感覚がまったくと言っていいほど消えている……。そんな話をしていた。 「子どもの頃は、デパートひとつ、ぜーんぶ欲しいと思ったこともあったのに」と女友だち。欲望に振り回…
朝日新聞2008年6月4日毎日jpを見ていて「<石原産業>四日市市に本社機能移転 不正再発防止で」の記事が目にとまり(これは今日の話)、そういえば、とここに書こうと思いながら忘れていた朝日新聞の記事を思い出した。新聞を引っ張り出してくると、猛毒のホ…
本が好き!(光文社)2008年7月号、p.32 太田直子「字幕屋は銀幕の裏側でクダを巻く」今回(第十二回とある)は「やりたい邦題」という題になっているが、どうやら「やりたい邦題」は業務連絡時だけで(題名を考えるのは配給会社の宣伝部だしね)、だからこ…
アサヒカメラ2008年6月号、p.232 大西みつぐ「東京 密やかな町」(インタビュー記事)この撮影方法だったら私のやり方と同じじゃん。でも私がやっても「息をひそめるように」は何ものも「現れ」て、は、こないのだな。そりゃそうか、私の場合はただ無精(に…