困ることのひとつに、「なんであんな変な邦題をつけたんだ」と責められるというのがある。これは濡れ衣だ。字幕屋は邦題にかかわっていない。シリーズ物を除き、字幕翻訳の段階で邦題はまだ決まっていないので、業務連絡もすべて原題でおこなう。とはいえ、いちいち原題をアルファベットで打つのは面倒なので、勝手に直訳したり簡略化したり、時にはふざけて内輪の邦題を確立してしまうこともある。二〇〇五年の『イカとクジラ』は、原題そのままの直訳邦題だが、業務連絡ではなぜか「イカタコ」になっていた。
本が好き!(光文社)2008年7月号、p.32 太田直子「字幕屋は銀幕の裏側でクダを巻く」
今回(第十二回とある)は「やりたい邦題」という題になっているが、どうやら「やりたい邦題」は業務連絡時だけで(題名を考えるのは配給会社の宣伝部だしね)、だからこのエッセイの結語も、「邦題は厄介だ」になっている。
080616-55