2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

無理を承知で、一度みなさんもこう思ってみて欲しい。

――こんなにひどく見える世界ではあるが、それでも、ここは完璧な世界なのだ と。 白石一文『どれくらいの愛情』(文藝春秋、2006年、p.439)この本には表題作の他にも『20年後の私へ』『たとえ真実を知っても彼は』『ダーウィンの法則』という作品が収められ…

あのね、この写真はやらせだと思うのです。だって変でしょう、縁側に花瓶なんて…ね。舅も夫も亡くなりましたが、こうして思い出を語れるのも写真があるからですよね。

『港区 私と町の物語 上巻』(港区、2007年、p.22)橋本栄さんという人が、小学生の夫と3歳下の義妹が「縁側で仲良し読者」をしている写真について語っている。撮影時期が昭和8、9年というから、写真を撮ることはまれであったかもしれず(なにしろ「ライカ1…

そのときだ手品師のハンカチがひらめく

「ピエロのトランペット」(ファマウリ作曲)の中山知子の日本語詞の一部昨日の新聞に中山知子の訃報が載っていた。「ピエロのトランペット」は、子どものための歌のコンクールZechino D’oroの1965年の入賞曲で、さっそくその年のNHK「みんなのうた」に登場…

不朽の名作とうものはあっても、不朽の名訳というようなものは原則的に存在しない。

『グレート・ギャツビー』のあとがき、p.331 村上春樹「翻訳者として、小説家として――訳者あとがき」この文のすぐ前では「賞味期限のない文学作品は数多くあるが、賞味期限のない翻訳というのはまず存在しない」という言い方もしているが、そうだろうか。「…

それでも僕らのいる部屋の、明かりのともった一列の黄色い窓が、都市の頭上高くにぽっかりと浮かんでいる様は、暗さを増していく通りに立つ行きずりの人の目には、秘密めいた人の営みの一端として映っているに違いあるまい。僕はまたその行きずりの人でもあった。上を見上げ、そこにいったい何があるのだろうと思いを巡らしている。僕は内側にいながら、同時に外側にいた。尽きることのない人生の多様性に魅了されつつ、同時にそれに辟易してもいた。

スコット・フィッツジェラルド、村上春樹訳『グレート・ギャツビー』(村上春樹翻訳ライブラリー、中央公論新社、2006年、p.71)読んでいて飽きることのない文に満たされている本だが、といって訳者の村上春樹が絶賛しているほどにはのめり込めなかった。書…

立って乗れると、天下を取ったような気分になる。

朝日新聞、30面「70代 波乗りおばあちゃん」という見出しで、ブラジル移民の浦本房江さん(77)と今野礼子さん(79)のサーファーぶりが地元でも話題になっている、と紹介している。上のは、その記事の中にあった浦本さんの言葉。70歳で仕事を引退後、サーフ…

外国のマスコミのなかにはmultinational forcesではなく、international forcesという表現をつかったところがあった。multinational forcesはそれでよいのだが、日本語では“多国籍軍”よりも“複数国軍”と訳したほうが、より正確でなかっただろうかと、しきりに思う。

NHKラジオ上級・基礎英語1991年4月号、p.106 平野次郎「MY ENGLISH WORLD 37“多国籍軍”のトリック」国連加盟国は159か国(当時)なのに、多国籍軍に参加しているのは28か国だから、小国籍軍ではないかと疑義を呈し、multiの意味について言及したあと、上記の…

一日パソコンの前に座ってんだったら呑むときくらい立ったほーが体のためよ。

日本橋茅場町に最近?出来た立ち飲み屋に、看板代わりにでかでかと書かれていた。自転車で通り過ぎただけなんで、店の名は確認し忘れた(まさかこれが店の名前だったりして)。けど、体のためというのなら、酒は控えた方が、ですよ。080524-32

ライブで言いたいことは言ってる。飲んでいる時はおまけだ。

18日に観た映画『タカダワタル的ゼロ』(監督・脚本:白石晃士)で、高田渡が言っていた。飲んでる時にね。確かにライブでの彼は真面目で真剣。「いせや」で酒を前にしているのは、別人、なのかなぁ。3年前に死んじゃってるんだから、映画にいる高田渡はもう…

デジタルといえど多くのシャッターを切らない。あと一歩左右へ前へなんてこともしていない。そうすると、町の人々も息をひそめるように現れるんですよ。

アサヒカメラ2008年6月号、p.232 大西みつぐ「東京 密やかな町」(インタビュー記事)この撮影方法だったら私のやり方と同じじゃん。でも私がやっても「息をひそめるように」は何ものも「現れ」て、は、こないのだな。そりゃそうか、私の場合はただ無精(に…

洒落た会話や思わせぶりな設定で愛や苦しみ、やさしさやジョークをお手軽に書き散らしただけの小説はもう必要ありません。

自分が一体何のために生まれ、生きているのか、それを真剣に一緒に考えてくれるのが、本当の小説だと僕は信じています。 白石一文昨日読んだ『見えないドアと鶴の空』の奥付の裏に、上の文が自筆のまま印刷されていた。なるほど。読み続ける気になるのは、白…

「だって真悟の産声を聞いた瞬間にわたしは思ったんだもの。ああ、やっぱりわたしはあなたの子どもを産むべきだったって」

白石一文『見えないドアと鶴の空』(光文社、2004、p.310)また白石一文なのは、ちょうど続けて読んでいるところなので……。まさか白石一文にオカルトサスペンスがあるとは思っていなかったので、少々面くらってしまったが、途中からいつものペースになって、…

ペリカン便引退

朝日新聞上のは1面の見出しだが、経済面に行くと“「お荷物」ブランド廃止”と書かれてしまっている。日本通運は郵便事業会社と「JPエクスプレス」を設立することになっていて「ゆうパック」ブランドが残ることになったから当然といえば当然なんだろうけど、運…

この物語はまさかと思う部分が真実である。

映画『ハンティング・パーティ』の冒頭に出てくる字幕と言われても、もう慣れっこになってしまってるからねー。多少ハイな部分はあるんだが、現代における戦争のぐちゃぐちゃ度がよく出ている映画だった。監督・脚本:リチャード・シェパード 日本語字幕:戸…

この百年、カメラとレンズは飛躍的に進歩した。逆説めくが、それは「レンズつきフィルム」に使われたような、優れたフィルムが存在しなかったから生まれた進歩ともいえる。フィルムの限界を、レンズやシャッターが懸命になって持ち上げてきたのである。

神尾健三『めざすはライカ! ある技術者がたどる日本カメラの軌跡』(草思社、2003、p.284)若いときにミノルタにいた著者の語る、世界に冠たる日本製カメラの歴史。ライカをめざしていたら写ルンですになっちゃった。と言ってるわけではないんだけどね。080…

私が一方的に彼女を観察しつづけてきただけのはずだった。その香折が私のことを肝心な部分で的確に掴み取っている事実に私は少したじろいだ。

白石一文『一瞬の光』(角川書店、H12、p.287)映画にしたらもうとんでもなく陳腐な作品になってしまいそうな小説なのだけど、人を好きになることがどういうことかを真剣に書いている。『私という運命について』と同じで、この本にも「怒り」や「死」「愛」…

「赤井さん、どうしてそんなに大きくなっちゃったんですか」「どうしてかな」「真面目にやってきたからよー」

アリさんマークの引越社のTVCMわかってるのに訊くなって。080515-23

ゴミ、捨てんなよ!

ソトコト2008年6月号表紙の右下に小さく印刷されている言葉。そう、まだいるからねー、ゴミを無造作に捨てちゃう人。あとタバコの吸い殻をゴミと思っていない人も多いね。ソトコトには「ロハスピープルのための快適生活マガジン」というキャッチがついてるん…

効率と生産性を価値とする社会は、他者からの評価が一瞬で下される。完璧な外見は、束の間の人間関係を繰り返し、勝ち組として生き残っていくための武器にいっそうなりつつある。

朝日新聞2008年5月11日(読書欄)久田恵「完璧な外見を求める欲望の果てには」(『ビューティー・ジャンキー 美と若さを求めて暴走する整形中毒者たち』の書評)顔の見えないネット社会に逃避、するという手はいかかでしょう。でもやはり実体(って)を愛さ…

自分の感情と事実を矛盾させぬよう、人の記憶というのは選択的に想起されるものらしい。

篠田節子『弥勒』(講談社文庫、2001年、p.244)巨大サイクロンにより150万人が被災したミャンマーで、軍事政権が新憲法の是非を問う国民投票を強行(一部の被災地は除いたらしいが)というニュースを昨日テレビで聞いていて、篠田節子の『弥勒』が頭に浮か…

コンビニ受診

朝日新聞「コンビニ受診 救急限界」というのが見出し。軽症患者の身勝手な「コンビニ受診」が増えていると嘆いているのだ。ついにコンビニに医院が併設されるときが来たか、と思ったはやとちりな私は相当な馬鹿だけど、場所によってはそんな状況もアリかな、…

人間というのは現在しか見えないつくづく寂しい生き物なのだと思います。要するに、希望も絶望も人生には本来無用のものなのかもしれない。僕たちはただ、希望も絶望もないこの茫漠たる世界で、その日その日を生かされていくだけ――きっとそれが嘘偽りのない真実なのでしょう。

白石一文『私という運命について』(角川書店、H17、p.324)この本は、小説にしては言葉によりかかりすぎていて(といったらおかしいのだけど)、物語よりは(ってこれもこう書いてしまうとおかしいか)それを動かしている言葉が、こんなふうに部分的に取り…

ふたりは顔をまっかにし、汗をたらし、腕をふりあげふりおろし、コブシをつくったりハサミをつくったりパッとひらいたりした。ホイホイホイよ、アイコでチョキよ、パーチョキグーよ、おつぎはグーよ、ヘナヘナパーよ。

北杜夫『船乗りクプクプの冒険』(角川文庫、S44、p.112)ヘナヘナパーよ、っていいなぁ。今後常用してしまおう。この文庫の解説は井上ひさしで、こんなことを書いている。 番組が終わったからこんなことが言えるのだが、最近までNHKから放送していた「ひょ…

「明晰であるとはお茶を濁さないということ。高級そうな言葉でごまかすことから、最も遠い態度のことです」

朝日新聞2004年3月1日夕刊(署名記事:近藤康太郎)ウイトゲンシュタインの『論理哲学論考』の新訳(今からだともう2年前だけど)を出した野矢茂樹東大助教授の言葉。「今まですでに5冊の訳業があり、屋上屋を重ねることはしたくなかった。新訳を世に問うと…

この惑星の住人は、主役と脇役に分けられている。言うまでもなく、大多数が脇役だ。

サントリーBOSS レインボーマウンテンのTVCMご存知、宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズの14弾目(らしい。多分半分もみてなさそう)に出てくるセリフ。最近かかっているこの時代劇篇は、トミー・リー・ジョーンズが斬られ役になって白目を剥く場面が最高だ…

「もちろん、禁煙で」

新宿のメキシカンレストラン「エルトリート」で、どこから見ても外人のコバヤシさんが、人数待ちのチェックをしにきた店員に流暢な日本語でこう答えていた。私も当然禁煙席にしてもらったのだけれど、この人は、あくまで紳士的にではあるが、なんでそんなこ…

「必死に打球を追いかけて取ろうとしたら、ああいう行動をしてしまった」

朝日新聞ロッテのオーティズが対西武戦で、「5回無死、栗山の一、二塁間へのゴロを止めようとグラブを投げつけた。これが打球に当たったため、規則により打者走者に三塁への進塁を与えてしまった。結局、次打者の中犠飛で3点目を奪われた」ことについて広報…

「子供の父親なんて女が好きに選べばいいのよ。たとえその男の実の子じゃなくたって、この男が父親にするにはいいなと思えば、その人を父親にしてもいいのよ。だって子供を産むのも育てるのも私たち女なんだから」

白石一文『心に龍をちりばめて』(新潮社、2007、p.237)別な場所でも違う人物に同じようなことを言わせている。「じゃあ、選択の余地はないわね。その歳だともう子供を産むぎりぎりなのよ。失礼な言い方をするけど、相手なんて誰でもいいじゃない。先ずは結…

「御神体じゃないんだから、いてもいなくてもいいんじゃないの」

毎日jp http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080503ddm041040033000c.html パンダ:「いてもいなくてもいい」 政府獲得意欲に、石原都知事は冷淡発言 石原慎太郎には神経を逆なでされることが多いが、「いなくてもいい」はまっとうだ。「見たけりゃいる…

書店の店主様、あなたの店を私はこよなく愛しておりました。

朝日新聞、朝刊声欄内幸町と虎ノ門の間にあった10坪足らずの本屋が消えてしまったことを嘆いての、安倍公子(54)さんという人の、投書から。080502-10