進藤義晴、進藤幸恵『幸せになる医術 これが本当の「冷えとり」の手引き書』(PHP研究所、2011-1)?★★☆

病気のほとんどは、食べ過ぎが原因で起こります。ろくに嚙まないで食べると消化吸収が悪く。栄養が十分体に入らない。30分かけてゆっくり食べる暇がない時は、「食事を抜かせ」という合図だと思うこと。 絶食すると、内蔵の毒がよく出ます。(p.19)「嚙」に…

重松清『卒業』(新潮文庫8075、H18)

表題作の他『まゆみのマーチ』『あおげば尊し』『追伸』を収録。★★★『まゆみのマーチ』★★★ 『あおげば尊し』★★☆ 「ひとに迷惑をかけるんは、そげん悪いことですか?」 先生がそれにどう応えたのかは知らない。母は教えてくれなかったし、父は家に帰ったあと…

篠田節子『百年の恋』(朝日文庫、2003年) 作中育児日記:青山智樹 解説:重松清

真一は体をひねり、その未知の物体を見た。 「あ……」と小さく声を上げていた。それはエイリアンではなかった。 確かに育ちすぎているのだろう。両手を開いて泣いているそれの顔は、真一があまりに馴れ染んだ顔だった。女の子だというのに、だれもがふりかえ…

 白石一文『ほかならぬ人へ』(祥伝社、H21年)

白石一文ファン?としては、これで直木賞受賞というのはちょっとという感じがしなくもないが、賞なんてタイミングとかもあるのだろうし、なにより本人が喜んでいるみたい?なんで、まあ、いいんでしょう。単行本には、似た題名の「ほかならぬ人」探しの話が…

白石一文『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』下巻(講談社、2009年)

二度と会うことのない人は、僕たちにとって「もうこの世にいない」のと同じだ。だとすれば、可能性としては会うことができるとしても、決して会うことのない人々で満ち満ちた「この世」なるものは、死んでしまった人々が住むという「あの世」と一体どれほど…

白石一文『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』上巻(講談社、2009年)

我々の生活に不可欠な種々の製品を作り出す会社よりも、使い勝手のいい検索エンジン一つ発案したにすぎぬ会社の方が何倍も利潤を挙げているという現実はやはり間違っている。なぜなら広告主であるメーカーが全部潰れてしまえば検索エンジンの会社は一瞬のう…

「プロデュース」は俺がみんなを「管理」できているという唯一の証だ。誰もその枠を出ない、俺の創ったものの中にしっかりと収まっているということ。そして同時に今や「プロデュース」は俺の存在価値そのものでもある。自分が存在しているという証、意味、価値。それを失うなんて。

白岩玄『野ブタ。をプロデュース』(河出書房新社、2004-2005年、p.171)高校生の時からこんなふうに世界を見ていたら……たいへんでしょうねぇ。だから主人公は、プロデュースはうまくいっても、自分の居場所を失うんだろうけど。え、でもまた自分をプロデュ…

それではまた、次の小説で会いましょう。

島本理生『一千一秒の日々』(マガジンハウス、2005年、p.219)あらら、あとがきでこんなこと言われちゃったよ。「なんとなくほっと暖かい気持ちになってもらえたら」とも書いてあるが、息苦しくなるところもあったのだけど。友達繋がりの登場人物の中に自分…

「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか」

「私と手をつないで図書室の中を歩いてくれませんか」 二人の台詞がほぼ同時に重なった。 島本理生『一千一秒の日々』(マガジンハウス、2005年、p.213)言葉が重なってしまうことはよくある。けど、ぶつかった途端、そこで口を噤んでしまうと思うのだ。だか…

東洋のハワイというには実は冬などあまりにも寒すぎるし、風景もケンチャ椰子が「ややハワイ的かな……」とつぶやけるくらいで「むかしはよかった」話のひとつとして「八丈島=ハワイ説」は冗談式忘却の彼方に散っていったが、かつてのつましい新婚さんたちが泊まった温泉宿に往事を思わせる名前だけが残った。それが南国温泉ホテルであった。

アットワンス(JTBパブリッシング)2008年10月号 椎名誠「東京巡礼 第2回 消えた秘湯」今はもうない八丈島の、椎名誠にとって「日本でいちばんいい温泉」だったという南国温泉ホテル。八丈島も新婚旅行のメッカだったことがあるのね。いつの頃なんだろ。昭和…

歴史は勝者によって記されていく。

まさに、その典型例が、明智光秀という武将なのだと知った。我々が知る光秀像は、秀吉が天下を取ったあとに書かれた『太閤記』を代表とする軍記読み物によりでっち上げられた――というより、創作された――エピソードをもとに作り上げられてきたのである。 真実…

入院中は、何かというと、句読点のように「ありがたいねえ」が口に出た。

城山三郎『そうか、もう君はいないのか』(新潮社、2008年、p.149) 井上紀子「父が遺してくれたもの――最後の「黄金の日日」」城山三郎の遺稿で亡き妻への「ラブレター」と話題の本だが、内容以前に、体言止めの多い文体にのれなかった(完成稿ではないとあ…

私は子供たちのことも妻のことも愛してはいない。

彼らは私の前からいなくなっても何ら問題のない存在である。いつ死んでくれても構わないと常に思っている。彼らは私の人生にとって厄介者である。すくなくともその必要性を遥かにしのぐほどに私の人生の阻害要因であろう。白石一文『この世の全部を敵に回し…

私は“認知症高齢者の問題”に関わっているが、認知症によって生活能力が崩れていく中、彼らの「誇り」や「尊厳」への固執がなかなか壊れないことにしばしば驚かされる。知的能力や身体能力が低下し、日常の生活に難渋する認知症高齢者においても、「誇りの平等」が担保されることは重大なテーマなのである。換言すれば、人間とはそれほど業の深いものなのだ。そして「近代」とは、その人間の業を煽るシステムである。近代の終焉が宣言されて久しいが、ポストモダン言説などで超克したり解体したりできるほど「近代」はヤワではない。なにしろ人間の

一冊の本(朝日新聞出版)2008年9月号、p.8 釈徹宗「宗教聖典を乱読する13 特別編 イスラム原理主義を考える――アブラハム宗教を終えるにあたって」イスラム原理主義について語っていて、それもわかりやすく、かつためになることばかりだったのだが、認知症高…

すべてを勝利にささげた孤高の若者。こんな男が、まだ日本にいた。

朝日新聞2008年8月16日、1面、署名記事(柴田真宏)男子柔道100キロ超級で金メダルを取った石井慧についての記事の〆の文。「こんな男が、まだ日本にいた」と、文章的には感激しているようだけど、私など、まあ、いなくてもいいかな、と。いやいや、立派な成…

それでも無事に横断歩道を渡りきったぼくは、また右に折れて歩き出し、そしてふと旭屋の軒先からぶら下がっている「本」というネオンに気づいてなんということもなしに扉を引いて店の中に入った。でも、入って山のように積まれ並べられた本を眺めたとたんにぼくを襲ったのは、或る吐き気のような不快感だった。いったいなんのためにこんなに本があるのだろう。

庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』(中公文庫、2008年、p.143)先週、銀座での時間調整はここでと決めていた旭屋がなくなっていて、あせったが(4月25日に閉店してるわけだから2ヶ月近くも気づかずにいたっていうのにね)、銀座の旭屋といえばなんたって『赤…

一生忘れられないようなことをしたんだ、みんなは。じゃあ、みんながそれを忘れるのって、ひきょうだろう? 不公平だろう? 野口くんのことを忘れちゃだめだ、野口くんにしたことを忘れちゃだめなんだ、一生。それが責任なんだ。罰があってもなくても、罪になってもならなくても、自分のしたことには責任を取らなくちゃだめなんだよ……。

重松清『青い鳥』(新潮社、2007年、p.147)罪を贖うというけれど、贖うことなんてできっこないのだ。だから最低限向き合わないと。それを重松清は、責任と言っているようだ。そして時効もない、と。重松清には吃音を扱った半自伝的な『きよしこ』という作品…

あんなことをしてしまった自分はなんて可哀そうなのだろうと思った。さらに思った。曜子さんはなんて可哀そうなのだろう。あの人はきっといまでも死んでしまいたいのだ。だからあれほど一生懸命になって洪治に感謝しようとするのだ。他に生きるすべを見つけがたくて、生きる理由を見つけがたくて、たとえ嘘だと分かっていてもあの晩の洪治を信じようとしているのだ。そうするしかないのだ。彼女が生きるためには嘘も真実もどこにもあってはならないのだ。

白石一文『草にすわる』(光文社、2006年、p.91)この主人公の独白は、大きく覆されることになる。080603-42

「理想がいけないのではない。理想を信じすぎるのがいけない。でも、理想ってやっぱり、すばらしいものですよ」

朝日新聞 塩野七生さんに文化人類学者渡辺靖さんが聞く 「(略)イギリスの政治哲学者アイザリア・バーリンは、人間が大きな理想を掲げて社会を変えられると思った時にはろくなことにならないという趣旨のことを述べています。声高にスローガンを掲げなかっ…

無理を承知で、一度みなさんもこう思ってみて欲しい。

――こんなにひどく見える世界ではあるが、それでも、ここは完璧な世界なのだ と。 白石一文『どれくらいの愛情』(文藝春秋、2006年、p.439)この本には表題作の他にも『20年後の私へ』『たとえ真実を知っても彼は』『ダーウィンの法則』という作品が収められ…

ライブで言いたいことは言ってる。飲んでいる時はおまけだ。

18日に観た映画『タカダワタル的ゼロ』(監督・脚本:白石晃士)で、高田渡が言っていた。飲んでる時にね。確かにライブでの彼は真面目で真剣。「いせや」で酒を前にしているのは、別人、なのかなぁ。3年前に死んじゃってるんだから、映画にいる高田渡はもう…

洒落た会話や思わせぶりな設定で愛や苦しみ、やさしさやジョークをお手軽に書き散らしただけの小説はもう必要ありません。

自分が一体何のために生まれ、生きているのか、それを真剣に一緒に考えてくれるのが、本当の小説だと僕は信じています。 白石一文昨日読んだ『見えないドアと鶴の空』の奥付の裏に、上の文が自筆のまま印刷されていた。なるほど。読み続ける気になるのは、白…

「だって真悟の産声を聞いた瞬間にわたしは思ったんだもの。ああ、やっぱりわたしはあなたの子どもを産むべきだったって」

白石一文『見えないドアと鶴の空』(光文社、2004、p.310)また白石一文なのは、ちょうど続けて読んでいるところなので……。まさか白石一文にオカルトサスペンスがあるとは思っていなかったので、少々面くらってしまったが、途中からいつものペースになって、…

この物語はまさかと思う部分が真実である。

映画『ハンティング・パーティ』の冒頭に出てくる字幕と言われても、もう慣れっこになってしまってるからねー。多少ハイな部分はあるんだが、現代における戦争のぐちゃぐちゃ度がよく出ている映画だった。監督・脚本:リチャード・シェパード 日本語字幕:戸…

私が一方的に彼女を観察しつづけてきただけのはずだった。その香折が私のことを肝心な部分で的確に掴み取っている事実に私は少したじろいだ。

白石一文『一瞬の光』(角川書店、H12、p.287)映画にしたらもうとんでもなく陳腐な作品になってしまいそうな小説なのだけど、人を好きになることがどういうことかを真剣に書いている。『私という運命について』と同じで、この本にも「怒り」や「死」「愛」…

自分の感情と事実を矛盾させぬよう、人の記憶というのは選択的に想起されるものらしい。

篠田節子『弥勒』(講談社文庫、2001年、p.244)巨大サイクロンにより150万人が被災したミャンマーで、軍事政権が新憲法の是非を問う国民投票を強行(一部の被災地は除いたらしいが)というニュースを昨日テレビで聞いていて、篠田節子の『弥勒』が頭に浮か…

人間というのは現在しか見えないつくづく寂しい生き物なのだと思います。要するに、希望も絶望も人生には本来無用のものなのかもしれない。僕たちはただ、希望も絶望もないこの茫漠たる世界で、その日その日を生かされていくだけ――きっとそれが嘘偽りのない真実なのでしょう。

白石一文『私という運命について』(角川書店、H17、p.324)この本は、小説にしては言葉によりかかりすぎていて(といったらおかしいのだけど)、物語よりは(ってこれもこう書いてしまうとおかしいか)それを動かしている言葉が、こんなふうに部分的に取り…

「子供の父親なんて女が好きに選べばいいのよ。たとえその男の実の子じゃなくたって、この男が父親にするにはいいなと思えば、その人を父親にしてもいいのよ。だって子供を産むのも育てるのも私たち女なんだから」

白石一文『心に龍をちりばめて』(新潮社、2007、p.237)別な場所でも違う人物に同じようなことを言わせている。「じゃあ、選択の余地はないわね。その歳だともう子供を産むぎりぎりなのよ。失礼な言い方をするけど、相手なんて誰でもいいじゃない。先ずは結…