アズマカナコ『捨てない贅沢 東京の里山発 暮らしレシピ』★★★(けやき出版、2011-1)

「捨てない」のに、過剰なものが一つもない(暮らしはそうなんだろうけど、この本にも)。それは「暮らしレシピ」だからなのだろうか。このつましさ(「贅沢」と題名に付けているのだから「つましさ」だと正反対になってしまうが)は何ともかわいらしくて、…

有川浩『ヒア・カムズ・ザ・サン』★☆(新潮社、2011-1)

『ヒア・カムズ・ザ・サン』★★と『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』★の二篇収録。自分からではないにしろ有川浩本とはほとんどつき合ってきたが、この本は駄目だった。特に二つめの『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』は。 人生で特別に大事な場所にいる…

有川浩『ラブコメ今昔』(角川書店、H20-1)

★★☆『ラブコメ今昔』『軍事とオタクと彼』『広報官、走る!』『青い衝撃』『秘め事』『ダンディ・ライオン〜またはラブコメ今昔イマドキ編』の6篇からなる短篇集。 誰か一人でも気づいてくれたら。その思いを拾ったのがまさか−−防大出エリートというだけで叩…

有川浩『図書館危機』(メディアワークス、2007-1)

★★☆ 検閲を根本的に排除するためには良化委員会と図書隊が同格の国家公務組織になる必要がある、というのが『未来企画』延いては慧の主張である。 同格の国家行政機関、それも文科省機関になることで法務省と検閲の正当性そのものを争うという慧の思想を実現…

篠田節子『百年の恋』(朝日文庫、2003年) 作中育児日記:青山智樹 解説:重松清

真一は体をひねり、その未知の物体を見た。 「あ……」と小さく声を上げていた。それはエイリアンではなかった。 確かに育ちすぎているのだろう。両手を開いて泣いているそれの顔は、真一があまりに馴れ染んだ顔だった。女の子だというのに、だれもがふりかえ…

芸能人の著書にはゴーストライターがつきものだが、本書はすべて東貴博本人の手によって書かれた作品だという。たしかにこの素直でなんの計算もない文章は、プロのライターでは逆になし得ないものだろう。

星星峡(幻冬舎)2008年11月号、p.103 西上心太「衒いなく描き尽くされる名コメディアンとその息子の絆」東貴博の『ニセ坊ちゃん』評。計算もなく文が書けるのか、とチャチを入れたくなるが(推敲と計算は違うのかな)、それは読んでからですね。081204-219

「あのね、女性ってのはね、今が大事だから。過去や未来より現在が。未来の夢を語るより、現在を満足させればそのほうが安定する」

阿川佐知子『婚約のあとで』(新潮社、2008年、p.323)現在を満足させられないから未来の夢を語るんじゃ……。昨日の引用があんまりだったので。にしてはこれも文句を付けてるみたいだよなぁ。081123-208

アクセサリー売り場で勧め上手な店員に丸め込まれている母の姿が目に浮かぶ。自己顕示欲の強い母だからこそ、モノの呪縛から解かれて自由になりたかったのだろう。でも持って生まれた性格がそれをさせなかった。八年前の冬、六十七歳の年に心筋梗塞で倒れるまで、母は毎日、「無欲無一物」を念仏のように唱えながら、モノに埋もれて死んでいった。

阿川佐知子『婚約のあとで』(新潮社、2008年、p.157)内容からは離れた引用で申し訳ないが、母の引越とそのあとの片付けを見ていたものだから、「モノに埋もれて死んでいった」という部分が焼き付いてしまったのだった。そういう私も、どちらかといえばモノ…

しかし、ピアニストというのは一般聴衆には決してわからない、専門家にすら聞き取れない毛ほどのミスを悔いる種族なのである。ひとつ音をはずしたら死ぬのではないかと思いつめるように教育されているのだ。

図書(岩波書店)2008年10月号、p.56 青柳いづみこ「告別のバッハ」ピアニストに限らず、プロ意識を持っていれば、どんなことであれ、似たような気持ちになるのではないか。この私ですら「組版」の仕事で、一銭にもならないのに(つまり印刷屋からは文句など…

「正しいことだとという自分の気持ちに反した行動を、私たちは『自分への裏切り行為』と呼んでいます。私が言ってきたような自分への裏切り行為、つまり自分にそむく行為は、ごくありふれたものです。しかし、少し深く掘り下げると面白いことがわかってきます」

彼はみんなを見回した「自分にそむくということは、闘争へむかうということなんです」 アービンジャー・インスティチュート、門田美鈴訳『2日で人生が変わる「箱」の法則 すべての人間関係がうまくいく「平和な心」のつくり方』(祥伝社、H19、p.122)これだ…

ひとつのバイトが終わると、その給料のほとんどを文庫に注ぎ込み、自室の床に積み上げては、うえから順番に読んでいきました。読むものがなくなったら、しぶしぶ働きに出るという日々を続けました。

その間、季節は正しく巡っていたはずですが、その記憶は、わたしにありません。温度を一定に保ったドームのなかで過ごしたような感じがします。 本が好き!(光文社)2008年8月号vol.26、p.5 朝倉かすみ「夏休みには、『夏休み』」(テーマエッセイ 夏休みこ…

田舎や自然は、正直好きといえば好きなのである。ただそれが今のところ自分の商売と関係ないというか、むしろ商売の邪魔というか、そういうジレンマはある。たぶん僕のパブリック・イメージにエコやロハスやスローライフはない。そういう下手すると偽善キャラというより、嫌われてナンボの分かりやすい偽悪キャラなのだ。絵だってわざとらしいくらい軽薄で毒々しい蛍光色を好んで使う。だからロリコン雑誌から取材は来ても、『ソトコト』からは絶対に来そうにない。

星星峡2008年8月号no.127、p.61 会田誠「濃かれ薄かれ、みんな生えてんだよなぁ…… 東金の暮らし(後編)連載エッセイ10」「商売の邪魔」ねぇ。それはそんな気もするけど「偽善キャラ」<「偽悪キャラ」。え、そんなことは言ってない。080803-103

「ガソリンが高くなったので軽自動車に買い換えました」。そんな発言をテレビで聞いた。フリーターには車を買うこと自体が難しいというのに……。この国の安定労働層は「私たちはこれ以上、生活レベルを下げられない」というメッセージばかり発してくる。

朝日新聞2008年7月8日、22面 秋葉原連続殺傷1ヶ月 3氏に聞く 赤井智弘、宮台真司、なだいなだ一度手にした生活レベルは下げられないようだ。当人たちはそうは言わないが、この事例は、私もいくつか耳にしてきた。ある人が借金を申し出る姿に(もっともこれは…

ところがそれがラヴェルのねらい目で、長い旋律が出てくるとてれんこてれんこ歌いたがるピアニストを制御するために、わざと右手に舌を噛みそうな音型を書き込んだのだろう。

図書2008年6月号、p.48 青柳いづみこ「二対七十五」音楽について書かれた文など、いままでだったらすっ飛ばしていたところだが、ピアノをいじりだしたことで、技量がたとえ幼稚園児(天才は除く)レベルであっても、こんなのまで読んでしまっている自分が怖…

書店の店主様、あなたの店を私はこよなく愛しておりました。

朝日新聞、朝刊声欄内幸町と虎ノ門の間にあった10坪足らずの本屋が消えてしまったことを嘆いての、安倍公子(54)さんという人の、投書から。080502-10