私が一方的に彼女を観察しつづけてきただけのはずだった。その香折が私のことを肝心な部分で的確に掴み取っている事実に私は少したじろいだ。

白石一文『一瞬の光』(角川書店、H12、p.287)

映画にしたらもうとんでもなく陳腐な作品になってしまいそうな小説なのだけど、人を好きになることがどういうことかを真剣に書いている。

私という運命について』と同じで、この本にも「怒り」や「死」「愛」「幸せ」など、私などまともに対峙しようとは思いもしないことについて言葉でちゃんと語っていて、だからそういう部分を抜き書きしてもよかったのだが、ここでは物語の内容のわかる文章を選んでみた。

彼の描く主人公はあまりに自分とは異質で、反発したくなることもあるが、基本的なところで真摯だから、また次が読みたくなってしまう。

080516-24