あのね、この写真はやらせだと思うのです。だって変でしょう、縁側に花瓶なんて…ね。舅も夫も亡くなりましたが、こうして思い出を語れるのも写真があるからですよね。

『港区 私と町の物語 上巻』(港区、2007年、p.22)

橋本栄さんという人が、小学生の夫と3歳下の義妹が「縁側で仲良し読者」をしている写真について語っている。撮影時期が昭和8、9年というから、写真を撮ることはまれであったかもしれず(なにしろ「ライカ1台、家1軒」の時代だったというから)、つまり写真撮影そのこと自体が、まだ何もかも「やらせ」の世界だったはずだ。で「縁側に花瓶」は、さらに小道具で演出までしちゃったんですね。

東京都港区誕生60周年記念として刊行された『港区 私と町の物語』(上下巻)は、350枚以上の個人所蔵の古い写真とともに、「聞き書きボランティア」が、ゆかりの人たちそれぞれの思い出を聞き書きした、港区育ちの私には懐かしさの詰まった本だ。

収録写真の大半は古すぎて記憶にない街並みなのだが、看板の名前を見て、あの家は昔(の昔、だね)はあんなだったんだ、というようにいくら見てもあきることがない。知った名前の人も何人か出てくるし、そうでない人の思い出話すら、もう丸ごと懐かしいのである。とはいえ個人的には、できれば母か妹には登場して欲しかったところだ(私はすでに港区の住人ではなくなって久しいから)。

本には20数年間毎日眺めていた通りの「現在の」写真(ちょうどウチから見た真ん前が写っている)もあるのだけれど、本が出てまだ1年しか経っていないというのに、環状2号線の工事で、そこはもう跡形もなくなっている。

080530-38