林望『イギリスはおいしい』(文春文庫、2005年)

★★★1991年の日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。引用は、迷いに迷って三(四)つだけ選んだ。そのうちの一つは私の酒嫌いを代弁してくれているもので、これは私用にするには若干の手直し必要なのだが、まあ大方はこんなところなので、長い引用になったが、酒…

林望『リンボウ先生家事を論ず くりやのくりごと』(小学館、1998年)

冗談でも揚言でもなく、私は料理が上手い。そう言うと、「男の料理」のようなものを想像して、ふと意地悪い笑いを浮かべる女の人もいることかと想像されるのだが、それはとんだ見当はずれというものである。(p.133) 「揚言」に「ようげん」のルビ なにしろ…

本格的な山のぼりをしたことがない。山は、離れたところからながめるものだと、なんとなく思っていた。けれど、しばらく前に、初登山を経験した友人から葉書がとどいた。もう二度といいと思うか、好きになるか、どちらかだろうと思ってのぼったのですが、楽しかった。はやく、またのぼりたい。文面のことばは、ゆっくり、胸の底に落ちてきた。ああ、そういうものか、と納得した。

asta(ポプラ社)2008年10月号、p.130 蜂飼耳「近づいてくる遠くの山々」(石田千『山のぼりおり』の書評)誰しも山がそこにあったら登りたくなってしまうものと思っていたけど、そうではない人もいるのだな。変人と称されることの多い私だけど、すんごく普…

こうしたポストモダン人をその「驕り」から目を醒まさせるものは、いまや近代の啓蒙理性ではなく、象徴的なテロリズムによって与えられるのではないか。秋葉原事件とは、そのような思想による「啓蒙テロ」であったといえるだろう。テロリズムが啓蒙理性の役割を代行するという事態に、私たちは時代の病を見るのである。

本(講談社)2008年9月号、p.60 橋本努「思想テロとしての秋葉原事件」「時代の病を見る」とは書いてあっても、この読み解きは、落ち着かない気分になる。10年後であれば、的確と思えるようになるのかもしれないが、当事者でなくても、秋葉原事件は、まだ十…

東武の乗客にとって、ふじみ野まで300円余計に払うのは抵抗があるのだろうか。逆にふじみ野まで先行の電車に乗れば、ただでTJライナーに乗れるわけだ。一般に首都圏の通勤電車は、東京から離れるほど空いてゆくが、TJライナーは逆であった。川越市では先行の急行小川町ゆきから乗り換えた客が多く、さらに混んできた。まるでこの先に東京があるかのようだ。

本(講談社)2008年9月号、p.29 原武史「鉄道ひとつばなし152 TJライナーに乗る」たった2ページのTJライナー乗車記だけど、面白かった。東武東上線で「英国の疑似体験ができ」てしまうってんだから。「この先に東京があるかのようだ」って、実際に乗ってそん…

読書感想文の厄介は、「この本は大体このように読まれるもの」という「正解」が、どこかで決まっていることだ。だから、能力のある子供は、その「正解」を当てに来る。別種の能力のある子供は、その「正解」を引っくり返しに来る。前者は、「大筋の合意に沿った文芸批評」になり、後者は「衝撃的な文芸批評」になる。どちらも「書き手のあり方」を尊重した文芸批評にはなるだろうが、果たしてその本が「そのように読まれてしかるべき」であるのかどうかは分からない。「正解」が予定調和に確定されているという、その前提が正しいかどうかも分からな

(注:1行目の「このように読まれるもの」には傍点ルビ) 一冊の本(朝日新聞出版)2008年9月号、p.106 橋本治「行雲流水録 第八十七回 文芸批評は、まず「あらすじ」だろう」080912-136で引用した豊崎(大は立)由美の「削りに削った末に残った粗筋と引用。…

竹島は韓国では領土問題ではなく、歴史問題なんです。

朝日新聞2008年9月14日、9面 耕論 日韓の悩ましさ(朴裕河/パク・ユハ、黒田福美、若宮啓文)なるほどそういうことか、といままでで一番腑に落ちた説明。080914-138

入場券を買って、館内に足を踏み入れると、最初に目にした一枚目の絵画がもう傑作。次も傑作。その次は傑作中の傑作。その次も傑作。その次は名作。さらに傑作。また傑作……といった具合で果てしがない。これは一作ずつ真剣に見ていったら、身が持たない……と思って目の傑作から目をそらす。と、視線の先には大傑作が飾ってあったりするのだから、もうどうしようもない。

原田宗典『たまげた録』(講談社、2008、p.86)ルーブル美術館で見事“ルーブル熱”にかかってしまった原田宗典と「カミサン」は、しかしこのあと「芸術の殿堂ルーブル美術館の中で、これほど芸術とかけ離れた出来事に遭遇」することになるのだが、この話は導…

たまに食べる焼肉のように、中年になっても恋愛小説を読もう、と思った。

星星峡2008年8月号no.127、p.73 ばばかよ「恋愛から遠ざかっていたわたしのひさびさの胸キュン」(山崎マキコ『盆栽マイフェアレディ』書評)ちゃんと最初の方で「脂のからまった焼肉と同列に並べるには異論のある方もいるでしょうが、味わえるなら何度でも!…

「皆が思っているほど特に新宿にこだわっているわけではないですよ。だけど象徴的な街なんです、新宿は。犯罪者もいるし、中国マフィアもいるし、真面目に働いているやつらもいる。

新宿浄化作戦とかは、それらを一緒くたにしてしまう、その想像力の無さが嫌なんですよ。やっぱり画一的な考え方を壊してやりたいというのが俺の中にはあるんでしょうね。壊せなくとも、この辺でちょっと暴れとかないとダメだろうなというのが」 本の話(文藝…

あのね、この写真はやらせだと思うのです。だって変でしょう、縁側に花瓶なんて…ね。舅も夫も亡くなりましたが、こうして思い出を語れるのも写真があるからですよね。

『港区 私と町の物語 上巻』(港区、2007年、p.22)橋本栄さんという人が、小学生の夫と3歳下の義妹が「縁側で仲良し読者」をしている写真について語っている。撮影時期が昭和8、9年というから、写真を撮ることはまれであったかもしれず(なにしろ「ライカ1…

この橋本治という人の最大の特徴は、自分で言ったことを、必ず最後に自分で引っくり返すことである。

橋本治『宗教なんかこわくない!』(マドラ出版、1995、p.302) いやもちろん、宗教のことについて書かれた本なのだけど、橋本治の論理展開というのが、実にこんな感じなんであった。 080425-3