少女の笑顔が陽射しの中で回っている。

なんて楽しそうなんだろう。
巽はその表情に打たれた。
思いつくままに身体を動かしているのだろう。ポーズそのものは稚拙だし、子供みたいにあどけない。けれど、その動きは伸びやかで、同じ世代の巽から見ても、天真爛漫な若さに溢れていて、ずっと眺めていたいという気持ちになった。鼻の先に、子供の頃、日暮れまで無心に駆け回った時に嗅いだお日さまの匂いが蘇る。
恩田陸
チョコレートコスモス』(毎日新聞社、2006年、p.62)

いけない、忘れていた。8月10日に読み終わって、私が最近読んだ本の中では出色だったというのに。

出色と思ったのは、『チョコレートコスモス』が、なにより小説でなくてはなしえなかった作品と思えたからだ。自意識の感じられない優秀な機械みたいな飛鳥(巽が見ている少女の名)、を生みだした恩田陸に拍手。

080821-114