ロイ:It’s my story. 僕のお話だ

少女:Mine, too. 私のでもあるわ
この少女のセリフに字幕屋は、はたと困った。わずか一秒なのだ。これまでも何度か書いたが、字幕は一秒=四字が原則。ここも四字以内で表現しなければならない。右の直訳は七字。末尾の「わ」を削除しても六字。まだ多い。しかし名案は浮かばず、初稿はtooの意味合いを無視して「私のよ」とした。すると配給会社の人から代案が来た。「二人のよ」。すばらしい! どうしてこれを思いつかなかったのか、字幕屋不覚。

本が好き!(光文社)2008年11月号、p.31  太田直子「字幕屋は銀幕の裏側でクダを巻く 第十六回 落ちても落ちても」

『転落の王国』は、もうすでに観た映画だったので、読み、取り上げたのだけど、映画をたんに観ている側としてはそんな細かいところまで覚えていないのはいうまでもない。

配給会社の人がチェックして代案をよこして来るとはね。そんなことまで配給会社の仕事になっているとは知らなんだ。

ところで、映画字幕が意訳に満ちているであろうことは、外国語にうとい私ですらよく感じることである。あんなに喋ってるのにこれだけなの、とか、日本語のダジャレが出てきたりとかさ。その他、直訳でもよさそうなのに(簡単すぎてわかるものもあるのだ)、言い換えてカッコつけてるとしか思えないことも度々ある。

ヘタすると最低限の内容すら伝わってきていないのかもしれず、にもかかわらず、映画の良し悪しをさもわかったように述べて(評価能力についてはこの際置いておくにしても)日常的に遊んでいるのだから、仕方のないこととはいえ、恐ろしいことをしているものである。

081110-195