小川洋子『貴婦人Aの蘇生』(朝日新聞社、2002年)

 「扉の前にもたもたしている間に、いつだって僕は用なしになる。僕を待っていたはずの人でさえ、いいのよ別に無理して入ってこなくても、って言うんだ」(p.136)

強迫性障害を患っているニコは、部屋に入る前に必ずある儀式をしなければならないのだった。が、それがうまくいかなくて、どうしてもユーリ伯母さんと「私」のところに来られないことがあって、その時にニコがこう言うのだ。

この言葉がなければ、ニコがこんなことを考えているなんて、思いもしなかったのだが……。

ニコと「私」との関係がとっても素敵なのだけど、でもこの時のニコを一晩かかって慰めたのはユーリ伯母さんだった。私だったら、きっとそんなことにももやもやした気持ち(嫉妬ではないにしても)に囚われてしまいそうなのだけど、この三人の間にはもっと違う風が吹いているみたいなのだ。