森絵都『宇宙のみなしご』(角川文庫16324、H22年)

★★☆ 「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。自分の力できらきら輝いていないと、宇宙の闇にのみこまれて消えちゃうんだよ、って」(p.174) いきなりキモを引用してしまったが、このセリフは四人…

森まゆみ『女三人のシベリア鉄道』(集英社、2009年)

女性史の上で、与謝野晶子ほど圧倒される人はいない。彼女は生涯に五万首余の歌を詠み、十三人子を産み、そのうち十一人が育った(一人死産、一人生後すぐ夭折)。子どもの着物も自分で縫った。歌のみならず詩を、小説を、童話を書き、大正期には評論、随筆…

私は歩きだした。

「なんでもいいから、もうついて来るな。俺は忙しいんだからな」 「忙しいって言う人間ほど閑なものだ。閑であることに罪悪感を抱くから、やたら忙しいと吹聴したがるんだね。だいたい、本当に忙しい人間が古本市をブラブラしているのは理屈に合わないぜ」 …

荒唐無稽なアイデア勝負の作品に評者は比較的辛めの採点をしてきたが、本作の完成度の高さには脱帽した。特筆すべきは計算の行き届いたナレーションの妙。一人称の主語をことごとく排除することによって、車を運転する主人公から身体感覚を消し、ナビを注視する〈視線〉そのものに変容させる。そして魂が肉体を離れた瞬間「僕」という主語を出現させる皮肉。そのあたりの配慮が心憎い。

きらら(小学館)2008年9月号、p.46 「きらら」携帯メール小説大賞の第51回月間賞に選ばれたのはトカゲヘッド氏の『運転中にナビの注視はやめましょう』。引用は、盛田隆二による選評。この作品は佐藤正午も評価していて、ダブル受賞となった。話はありきた…

彼女の目的が父とマツモトイズミとの関係の潔白を伝えることだったのか、父と彼女自身との関係の背徳を暴露することだったのか、私にはわからない。善意だけではない。悪意だけでもない。複雑な感情を渦巻かせて私に会いに来たのだ。

森絵都『いつかパラソルの下で』(角川文庫、p.46)渦巻かせられちゃったものだから、この先の展開にえらく期待してしまったのだけど、そして主人公たちも大げさな行動に出るのだけど、物語はいたってありきたりなところへと収斂してしまう。それが作者の狙…