三浦しをん『神去なあなあ日常』★★☆(徳間書店、2009-6)
彼らの口癖は「なあなあ」で、これはだれかに呼びかけているのでも、なあなあで済ませようと言っているのでもない。「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」ってニュアンスだ。そこからさらに拡大して、「のどかで過ごしやすい、いい天気ですね」という意味まで、この一言で済ませちゃったりする。(p.6)
奥付の手前に「The easy life in KAMUSARI by Shion Miura」とあるのだけれど、そうか、『イージー・ライダー』って、『なあなあライダー』なんだ。
生まれ育った横浜を離れ、神去村の神去地区に住むようになって、そろそろ一年が経つ。この一年にあったことを、書き留めておこうと思い立った。神去の暮らしは、俺の目にはめずらしいものに見える。なによりも住人がおかしい。おっとりしているようで、静かに破壊的言動を取ったりする。
今後もうまくやっていけるのかどうか、それはまだわからないけれど、とにかく書いてみる。ヨキの家で埃をかぶってたパソコン、電源入れたらちゃんと動いたし。でも、ネットには接続されてないんだよなあ。ヨキは家では黒ジコ電話を使ってるし(俺、村に来てはじめて実物見た)、第一、どの部屋にもケーブルの差し込み口自体が存在しない。こんな状態で、なんでパソコンだけ買ったんだろ。好奇心かな。買ったはいいけど説明書を読むのが面倒になって、放置していたにちがいない。(p.8)「埃」に「ほこり」のルビ
「静かに破壊的言動」っていうのがね。うはは。
引用は最初の段落だけのつもりだったが、「黒ジコ電話」というのが気になって。多分あれでしょ、昔の……。でも「黒ジコ電話」っていうの? 「ジコ」って? ジーコ、ジーコっていうから? 単に黒電話か、もしくはダイヤル式電話じゃないのかしらん。
春が近づいてから降る雪は湿って重い。
夜、布団のなかにいても、山の木が折れる音が聞こえてくる。パキン、パキンと、呆気ないほど鋭く澄んだ音をこだまさせるんだ。
それを耳にすると、たまらない気持ちになる。いますぐ山へ飛んでいって、若木を雪起こししてやんなきゃ。そんな、居ても立ってもいられない気持ちになる。
同時に、哀しくもなってくる。だって山には、数えきれないほどの木が植林されている。俺のもたついた作業ぶりじゃ、雪の重みにひしゃげた若木をすべて起こすことなんて、何年かかったってできそうにない。(p.34)「呆気」に「あっけ」のルビ
いやー、心配することなんて何もないじゃん。このあんちゃん最初っから山が好きなんだもん。
俺を呼ぶのは、山じゃない。直紀さんの姿だ。いや、もしかしたら俺にとっては、直紀さんこそが山なのかもしれなかった。(p.191)
本人は否定してるし、そりゃ直紀さんの存在の方が大きいのはわかるけど。ってことで、以下略。