『佐野洋子の単行本』(本の雑誌社、1985年)

★★★

例えば草刈正雄なんか私を追いかけて来るのである。嫌だと云っても私に云い寄るのである。私は断固として拒否する。もう拒否する。正調二枚目はたいがい私に云い寄る。
 藤竜也なんかはちょっと違う。私は藤竜也が好きで胸がドキドキするが、どうも難しい。関係を持続するのに私がひたすら傷つきそーで、傷ついても、私はあきらめがつかないで、追いかけて行き、追いかけて行くと、なお嫌われるのである。一緒に居ても心配で心配で心安まらない。そして突然、藤竜也は私の前から姿を消す。テレビに藤竜也が出て来ると、私は自分がかわいそーで泣けてしまう。テレビって本当に素敵!! かわいそーで泣いていると草刈正雄が出て来てやたらと私に優しい。だから草刈正雄も居て欲しいのネ。
 そしてうまくいくのが山崎努なので、これはもう理想的なカップルになるはずで、山崎努は私をどんどんいい女にしてくれる。山崎努も私と一緒にいてますます渋味がかった、いい男になってゆくのである。かなり緊迫した事態になっても我々は冷静にかつ知的に対処する。ずっとそう思っているので、今頃ではもう他人の様な気がしなくなって、懐かしい位である。本当にテレビって素敵!!
 もう一人かなりいい線にいくのが立石鉄男で毎日毎日面白おかしく暮らせるのである。立石鉄男は時時浮気をしてくる。私は逆上してけとばしてひっかいて又面白おかしく暮らす。そしてお互いにあんまり人間的成長しないまんまでじいさんばあさんになる。それでね、養老院で口汚い口げんかなんかして、そこへじいさんになった草刈正雄が私に云い寄る。私は断固拒否する。
 これ全部私のベターハーフである。結婚は相性だけであるというあまり知的でない結論に達するのに私はほとんど二十年かかった。伴侶を失うのに費やした時間である。テレビを見て相性の研究などしても手遅れである。人間は間に合わなくなって、いろんなことが解る。(p.136)

上のは『ベターハーフ』という五十二行のエッセイから十五行だけ削ったもの。なら全部載せちゃえばいいんだが、それは悪いような気もするのだ(こんなに引用しちゃっといてそれもないんだけど……。だから削ったところが気になる人は本を読みましょう)。

相変わらず佐野洋子は面白くて、それはきっと真実をずばずばと言っているからなんだけど、なぜか今回は、そのずばずば感が、そう快く思っていないある人物を私に思い出させるものだから、面白さに比例したようにある部分で頑なになっている自分がいて、最後までおかしな気分だったのである。

だからか、この文章はおかしいでしょ、いいのかなぁ少しは遠慮すればいいのに、とかの難癖もつけまくりで、でも結局は放り出せもせず、最後まであっという間に読んでしまったのだった。

って、何が言いたいかわからないよね。困ったな、断じて佐野洋子=A(快く思っていないある人物)ではないのに。何でこんな連想してしまったんだろ。佐野洋子、読みにくくなっちゃったよ。

で、急に話を元に戻すが、別のところ(p.102)では追いかけてくるのは、ロバート・レッドフォードだったりするのである。いや、別に私はあきれてないよ。すごいなーって……。

佐野洋子の単行本

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by ヨメレバ