中島岳志『ヒンドゥー・ナショナリズム 印パ緊張の背景』(中公新書ラクレ、2002年)

私は日本社会が歴史的に蓄積してきた宗教的伝統を見つめなおしたかった。しかし、そのような意識は、ともすると信仰なき近代的保守主義者のイデオロギー的なナショナリズムに回収されてしまう。かといってカルト的な宗教には惹かれない。ポストモダニズムは…

多田千香子『パリ砂糖漬けの日々 ル・コルドン・ブルーで学んで』(文藝春秋、2007年)

著者は、朝日新聞に記者として十二年半勤めたが、「甘いものも辛いものも含む「おやつ」を作って書く人になろう」(p.105)と、えいやっ(?)と退職。パリに製菓留学してしまう。それはいいにしても、「渡仏当初はボンジュールとメルシィと、数は二十まで言…

恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』(集英社、2005年)

子供の頃に読んだお気に入りのSFに、ゼナ・ヘンダースンの「ピープル」シリーズというのがあった。宇宙旅行中に地球に漂着し、高度な知性と能力を隠してひっそり田舎に暮らす人々を、そこに赴任してきた女性教師の目から描くという短編連作で、穏やかな品の…

伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』(創元推理文庫、2006年)

「それは河崎君のこと?」麗子さんは察しが良かった。 ええ、とわたしは認める。「彼はたぶん、まだ幼児の時に、生まれて初めて鏡で自分の顔を見た瞬間に、図に乗ったんですよ。俺は何と素敵なんだろう、って」 「世界中の女は俺のものだ、って?」 「まさに…

恩田陸『光の帝国 常野物語』(集英社文庫、2000年)

『大きな引き出し』『二つの茶碗』『達磨山への道』『オセロ・ゲーム』『手紙』『光の帝国』『歴史の時間』『草取り』『黒い塔』『国道を降りて…』の十篇からなる「常野一族」を扱った連作。常野という言葉が示すように、彼ら「常野一族」は特殊な能力を持ち…

著者:リンクアップ、監修:水野貴明『Yahoo! Googleで上位ランクするための 新版 SEO完全計画』(ソーテック社、2009年)

仕事関連?で一応読んでみた本。SEOのノウハウを引用しても仕方がないので……。 インターネット上に存在するホームページの数は、推定で数百億にのぼり、日々増加を続けています。かつて「Google」のトップページには、検索可能なホームページ(「Google」の…

 太田光、中沢新一『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書、2006年)

太田 先ほど中沢さんが、日常のささやかなコミュニケーションも誤解だらけだと言いましたが、そこにはもう一つ大事なことがあると思うんです。僕が何か話しても、受け止める相手には必ず誤解がある。その誤解をなくそうとやりとりをするのがコミュニケーショ…

 白石一文『ほかならぬ人へ』(祥伝社、H21年)

白石一文ファン?としては、これで直木賞受賞というのはちょっとという感じがしなくもないが、賞なんてタイミングとかもあるのだろうし、なにより本人が喜んでいるみたい?なんで、まあ、いいんでしょう。単行本には、似た題名の「ほかならぬ人」探しの話が…

 津田大介『Twitter社会論 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』(洋泉社 新書y、2009年)

このダイナミズムを更に突き詰めたのがツイッターだ。ツイッターはリアルタイム性が高く、気軽に他人の発言にツッコミを入れやすい構造になっているため、何かをつぶやいたあと、即座に反応が返ってくる。ある種メッセンジャーやチャットのような時間感覚と…

 藤堂志津子『まどろみの秋』(新潮文庫、平成10年)

昨日は佐賀のプロポーズを、打算的に考えないでもなかったのに、綾美からまるでプロポーズされたこと自体を祝福するような口調で話題にされると、急に気がとがめてきた。(p.162) どんな本でもひとつくらいは引用したくなる箇所があるものだが、この本には…

谷川雁『汝、尾をふらざるか 詩人とは何か』(思潮社 詩の森文庫、2005年)

なぜなら俳句がつきあたれなかった近代思想の核にともかくも接触したのが現代詩であり、それは異文明をみつめてふっと黙ったカナリアの内なる〈唖〉の自己表出とみなせますから。すぐれた現代詩は一種の〈手話〉だとはいえませんか。現代詩の過去になんらか…

佐藤可士和『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞社、2007年)

たとえるならまさに、僕がドクターでクライアントが患者。漠然と問題を抱えつつも、どうしたらいいのかわからなくて訪れるクライアントを問診して、症状の原因と回復に向けての方向性を探り出す。問題点を明確にするのと同時に、磨き上げるべきポテンシャル…

湊かなえ『告白』(双葉社、2008年)

物心ついた頃から、ひたすら褒められながら育った僕は、自分は頭がいいし、スポーツもできると思っていた。でも、田舎とはいえ、それなりに人数の多い小学校に通っていると、三年生になる頃には、それは母さんのただの願望であって、実際の僕はがんばったと…

小川洋子『完璧な病室』(中公文庫、2004年)

表題作の他、『揚羽蝶が壊れる時』『冷めない紅茶』『ダイヴィング・プール』を収録。『完璧な病室』 「電気をつけましょうか。」 「いいえ。このままにしておいて下さい。」 「ふ、服は脱いだ方がいいですか。」 「はい。あなたの、胸の筋肉で抱いて欲しい…

田宮俊作『田宮模型の仕事』(文春文庫、2000年)

ほかの模型メーカーは、つぎつぎとプラモデルの新作を出しました。私のところではあいかわらず、落ち目になった木製模型屋として細々とやっていました。 そんなおり、樹脂を扱っている材料屋さんから「新規に金型を作れないなら、不要になったプラスチック玩…

角田光代(文春文庫、北尾トロ『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』の解説)

本書を読んでいて思うのは、わけのわからない人間が多すぎる、ということである。わからないのは事件ではなく、人間なのである。(p.330) うーん、確かに。でもその事件は、わからない人間が起こしてるんで……。

北尾トロ『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』(文春文庫、2006年)

それはまだいい。最悪なのは服装だった。 仮にも裁判である。公式の場である。持ってなければスーツを着ろとは言わない。トレーナーにジーンズでもいいだろう。 でも、黒いトレーナーの右腕と背中に白ヌキでドクロのマーク入りってのはシャレにならんだろう…

小川洋子『博士の愛した数式』(新潮社、2003年)

「君の電話番号は何番かね」 「576の1455です」 「5761455だって? 素晴らしいじゃないか。1億までの間に存在する素数の個数に等しいとは」 いかにも関心したふうに、博士はうなずいた。 自分の電話番号のどこが素晴らしいのか理解はできなくても、彼の口調…

D・カーネギー(山口博訳)『人を動かす[新装版]』(創元社、1999年)

およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。(p.27) この本には確かに「人を動かす」秘訣が沢山書いてある。具体…

鈴木孝夫『日本語教のすすめ』(新潮新書、2009年)

ところが連載を終わり改めて全部を読み返してみると、これは結果として私の色々な分野にまたがるこれまでの仕事の、一種のアンソロジイと言ってよいものとなっていることに気が付いた。そして殆どの記述に一貫して見え隠れしているキイノートは、多くの日本…

白石一文『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』下巻(講談社、2009年)

二度と会うことのない人は、僕たちにとって「もうこの世にいない」のと同じだ。だとすれば、可能性としては会うことができるとしても、決して会うことのない人々で満ち満ちた「この世」なるものは、死んでしまった人々が住むという「あの世」と一体どれほど…

白石一文『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』上巻(講談社、2009年)

我々の生活に不可欠な種々の製品を作り出す会社よりも、使い勝手のいい検索エンジン一つ発案したにすぎぬ会社の方が何倍も利潤を挙げているという現実はやはり間違っている。なぜなら広告主であるメーカーが全部潰れてしまえば検索エンジンの会社は一瞬のう…

天童荒太『悼む人』(文藝春秋、2008年)

「人への優しい振る舞いや感謝される行為が一つでもあれば、十分です。ぼくには、人を裁く権利も、真実が何かを見極める能力もありません。ぼくの悼みは、ごく個人的な営みですから」(p.250) 坂築静人が奈義倖世に、悼みについて語っていたところ。他にも…

2009年に読んだ本のベスト10

はじめて本のベスト10を選んでみた。映画と違って2009年に発表になった作品から選ぶというわけにはいかないので(そんなに沢山は読めないので)、あくまで私が2009年に読んだ本の中からである。2009年の読書数(便宜上書籍単位で数えている)は100冊。マンガ…

長田弘『深呼吸の必要』(晶文社、1984年)

じゃあ、どの「あのとき」が、きみのほんものの「あのとき」なのか。子どもとおとなは、まるでちがう。子どものままのおとななんていやしないし、おとなでもある子どもなんてのもいやしない。境い目はやっぱりあるんだ。でも、それはいったいどこにあったん…

伊坂幸太郎『重力ピエロ』(新潮社、2003年)

本を読んだことで、映画の『重力ピエロ』(森淳一監督)の評価が私の中で一段と高まっている。本より映画の方がいいことってそうはないのであるが。『愛を読むひと』(原作は『朗読者』)も映画の方がよかったが、あっちは本を先に読んでいたから、受け止め…

林望『リンボウ先生家事を論ず くりやのくりごと』(小学館、1998年)

冗談でも揚言でもなく、私は料理が上手い。そう言うと、「男の料理」のようなものを想像して、ふと意地悪い笑いを浮かべる女の人もいることかと想像されるのだが、それはとんだ見当はずれというものである。(p.133) 「揚言」に「ようげん」のルビ なにしろ…

別役実『日々の暮し方』(白水社、1990年)

「日々の暮し方」というのは、そりゃ人それぞれあるのだろうと思うが、別役実が日々を暮らすとなると、それは全部「正しいやり方」でもってなされなければならないらしい。なにしろ本を開くと、「正しい退屈の仕方」だの「正しい電信柱の登り方」だのがずら…

プーラン・デヴィ(武者圭子訳)『女盗賊プーラン』下巻(草思社、1997)

わたしが何も話さないうちから、なんと多くの人がわたしについて語ってきたことだろう。なんと多くの人がわたしの写真を撮り、それをいかに自分勝手に使ってきたことか。虐待され、辱められて、なお生きている貧しい村娘を、人々は軽蔑してきた。 助けを求め…

プーラン・デヴィ(武者圭子訳)『女盗賊プーラン』上巻(草思社、1997)

母は、その子にお乳をやらないことに決めた。それでその子を育てるのは、わたしたち姉妹の役目になった。母は畑の仕事がいそがしく、とても赤ん坊の面倒は見ていられないというのである。わたしたちはなんとかして、ミルクを調達しなければならなかった。そ…