プーラン・デヴィ(武者圭子訳)『女盗賊プーラン』上巻(草思社、1997)

 母は、その子にお乳をやらないことに決めた。それでその子を育てるのは、わたしたち姉妹の役目になった。母は畑の仕事がいそがしく、とても赤ん坊の面倒は見ていられないというのである。わたしたちはなんとかして、ミルクを調達しなければならなかった。それがよその山羊の乳を盗むということを意味しても、ミルクは必要だった。(p.32)

力のない者が正義を実現しようと思ったら、方法は一つしかない。反乱を起こすことだ。(p.149)

プーラン・デヴィについては、盗賊上がりの政治家だという記事をずいぶん前に新聞で読んだ記憶があるが、この自伝では、プーランがまだ盗賊になる前の普通の暮らしの描写にも驚かされることばかりだった。

特にこの上巻は読み進めるのがつらくなるほどで、カーストという特殊な土壌があるにしても、こんなねじ曲がった共同体の中にいては、彼女が復讐という概念に取り憑かれても当然としか思えなくなってくる。

そして忘れられないのが、信じられないくらいやさしくて、でもこれまた信じられないくらい頼りなくて弱虫なプーランの父親である。今の日本のような世の中でなかったら、多分私はプーランの父親のように生きるしかなかったのではないか。世の中のことは普段罵ってばかりで、だからとりあえずの法体系としか言いたくないのだが、でもきっと沢山擁護されていそうなのだった。