北尾トロ『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』(文春文庫、2006年)

 それはまだいい。最悪なのは服装だった。
 仮にも裁判である。公式の場である。持ってなければスーツを着ろとは言わない。トレーナーにジーンズでもいいだろう。
 でも、黒いトレーナーの右腕と背中に白ヌキでドクロのマーク入りってのはシャレにならんだろう。単なる傍聴人でさえ目を疑うデザイン。検察や裁判官が気づかないはずがない。何も考えず、いつもの服を着ただけですってのは通らんよ。それはキミの事情。世間はそうは見ない。いくらうなだれていようとドクロ男。この服を選んでしまうデリカシーのなさに、事件に対する姿勢を嗅ぎ取ってしまうのだ。(p.98)

本書のハイライトシーン。他の話は忘れてしまいそうだが、これはすごすぎる。

北尾トロの肩の凝らない語り口で本はさらっと読めてしまったが、私が一番面白かったのは、巻末にある傍聴マニア(どんな世界にもマニアはいるのだ)集団「霞ヶ関倶楽部」(しかもクラブまで作っちゃってるのね)による特別座談会で、北尾トロの中途半端さすら斬り捨てていた。当然のように裁判員制度には全員賛成、どころか裁判長に成り代わって判決も言いわたそうってんだから……。まあ、このくらい意気込みのある人たちが裁判員というのならいいんだけどねぇ……。