香山リカ『文章は写経のように書くのがいい』(ミシマ社、2009年)

 とくに私の場合はすべて健康保険診療なので、どうしてもたくさんの患者さんを診なければならない。「一回二万円払ってもいいから一時間くらい話を聞いてほしい」という患者さんは自由診療精神科医に紹介して、「医療費は安いけれどひとりにかけられる時間は五分から十分」というのが実情だ。
 こういう話をまわりの人にすると、みな一様に驚く。「え、精神科医の診療時間ってそんなに短いの。最低、ひとり四十五分くらいかけるんじゃないか、と思ってた。ひとり五分から十分じゃ、何も話せないじゃない」
 ところが、この「七分診療」でも、しっかり話そうと思えばけっこうなことが話せる。(後略)(p.84)

 文章読本なのに、こんなところを引用しちゃってはですねぇ……。つまらなくはなかったのだが、実はその文章読本の部分はよくわからなかったのだった。

 「とにかくサクサク」と書いたが、そのためには「書いては消し、書いては直し」では先に進まない。私は、いったん書き出したら後戻りせずに、先へ先へ、と書き進めることにしている。先ほども述べたように、もし途中で止まってしまったら、「そもそもこの文章はダメだったのだ」とそれまで書いたものは潔く捨て、最初から書き直すことにしている。唸りながら一時間に三行、といった書き方は絶対しない。思考がそこで淀んだり後戻りしたりすると、結局は書くことが自分のためにもならないし、読む人を楽しませることもできない、と考えているからだ。(p.67) 本でゴシックになっていたところは青字にした

 多分、こうやって、やさしげに痛いところを突かれてしまったからなのだろう。でもこういう風に言えるのは、香山リカには書くべきことが確固としてあるからで、なのに書くことがない人には、って本の中ではやらかしているんで、ちょっとそれはねぇ、となってしまったのである。

 でもまあ、いろいろなところでお目にかかっていた香山リカに、この本でゆっくり対面できたのはよかった。でも対面時はこっちは絶対患者なんだよな。って、そう思ってるからか? それにそうか、本当に患者になっちゃえばいいんだ。なにしろ精神科なんだからでっち上げでも相談に行けるじゃん。ダメ? お金の心配もそうしなくていいって書いてあるし……香山リカ先生は、こういう困ったちゃんの相手をすることもあるんでしょうかねぇ?