もうひとつは、「鎖国観」をはじめとして、近現代が江戸時代をどう誤解しながら描いてきたか、の歴史をまとめることである。そこに見えるのは江戸に対する近現代の幻想(私自身の幻想も含め)の歴史ではないか、と思う。なぜ全人口の六%しかない武士ばかりが時代劇や時代小説の主人公になり、ほとんど起こらなかった剣の抗争を展開するのだろうか? なぜ「武士道」という江戸時代には存在しない概念が、日本人の誇りの核心のように論じられ、世界に宣伝されたのだろうか等々、不思議なことはたくさんある。

図書(岩波書店)2008年8月号、p.23 田中優子「江戸に新しい物語を」

渡辺京二の『逝きし世の面影』を読んで、江戸時代の日本人というのは今の私たちとはまったく違う人種?だったのかもしれないと思ったものだが、田中優子もそういうようなことを別な角度から言っているのか。それともあくまで現代の目で、まっとうと思われる視点を構築しようとしているのか。

080831-124