一日歩いて一度もシャッターを切ることなく、徒労感にとらわれることもある。そういうときは仕事になってないのだから、ホテルに泊まるのも気が引けるというものですよ。

ぼくはインド、アメリカ、東京と旅してきたけれど、こんなに地味な仕事は初めて。地方は疲弊し、逼迫してるんですね。
道を歩いていて、ふと小耳にはさんだ話から物語が始まるということもなくなったしね。空気までが動いていないと感じることもある。たとえむかしの風景が残っていても、生活感がないから撮らない。
アサヒカメラ2008年9月号、p.91 [特集]旅と写真 藤原新也「旅写真 私の1枚」(写真家インタビュー)

写真家というのは、少なくても普通のカメラ好きよりは、シャッターをよけい、どころか休むことを知らないくらいに切っているんじゃないか、とこれは多分に羨望+やっかみによる思い込みだが(もしかしたら、モータドライブを使って篠山紀信が撮りまくっているという大昔の話が、頭の隅に焼き付いているからとか)、写真家にして写真を撮らない(撮れない、なのか)ということの方に凄味を感じてしまう。

でもさぁ。いくらそんなふうにして撮られた写真でも、眼力のない私はきっと見すごしてしまうんだろうな。

080907-131