しかし、自分自身が産褥期の体調不良を経験してみると、お岩に対する考えも変わった。彼女が愚痴っぽいのは産後のマタニティブルーのせいではないか、簡単に毒薬を飲んでしまったのも健康を願う切なる思いゆえだったのだと、お岩のように寝ながら私は考えた。幸いひと月もすると元気になったが、産後の驚くべき不調を経験したことで、お岩が産婦として不幸な死を遂げたということの意味が、初めて問えるような気がした。また、具合の悪い妊産婦を、これでもかこれでもかと不幸にしていく設定を考えた作者・鶴屋南北の意地の悪さについても考えてみた

本(講談社)2008年10月号、p.11 横山泰子「ママでも本」

自著『江戸歌舞伎の怪談と化け物』の宣伝文。本屋で見かけても手に取る可能性のなさそうな本だが、北京オリンピックにはじまって、『東海道四谷怪談』を『フランケンシュタイン』まで持ってきて並べられては、でもまだ買わないと断言できるんだけど、手には取ってしまいそう。

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