山の貯水池の傍にある川魚屋に鯉を買いに行って、潜水艦の影みたいに泳ぐ大きな鯉を引き上げて、店の主人が金槌みたいなのでガツンと頭を殴ったときはびっくりしました。

それをぶつ切りにしてもらって、家の台所で包みを開けると、大目玉みたいな元のまま取らないウロコが一斉に逆立っていて、私は鳥肌立ちました。触れなくて家人に鍋へ移してもらい、さてこわごわと煮始めます。
鯉は骨もウロコも全部煮て食べるのです。一時間、二時間、三時間……、まだ鯉はビクともしない。五時間ほどで柔らかくはなるけど、まだ骨は硬いです。六時間、七時間、八時間、もう家の中は猛烈な鯉の臭いです。
そうやって九時間、十時間。鯉の大骨が指で潰せるようになります。そこへ真っ黒な味噌の塊を入れると、噎せ返るような臭いの地獄汁の出来上がり。

図書(岩波書店)2008年10月号、p.24 村田喜代子「台所維新」

読んでるだけで、私も鳥肌立ちました。

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