いま世のなかもずい分と進んで、鳥目の原因について先生も教えてくんなさるようになったろも、私の子供の時分にはよう判らねかったし、ほうして鳥目はべつに珍しくはねかった。

どごの家でも、親戚がふえるがんはもの入りらすけというて、内々同士で縁組したもんらったしの。
それを考えっと意造よ、誰をも責めることはできねわね。
烈ひとりにその報いが来たがんはほんんにむごいろも、いまさら原因をさがし出すよりも、なるべくこの病いがようなるよう、手を尽くしてやるほうが先でねえかてえ」

(注:「教」に「おせ」、「家」に「うち」のルビ)
宮尾登美子『藏(上)』(角川文庫、H10年、p.83)

主人公(のひとり)の烈が鳥目とわかって、地主で蔵元の田之内家は大騒ぎになる。烈の祖母のむらが父意造と母賀穂に、自分に言い聞かせるように諭す。

時代は大正の末。もっとも先天性の鳥目(夜盲症)となると、現代でも有効的な治療法は確立されていないようである。ただ当時は、病気や障害に対する偏見は比較にならないくらいひどかったはずで、ここに烈のような登場人物をもってきた作者の意気込みがわかろうというものだ。「登場人物については、実在のモデルはほとんどありません」というし。

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