暗い五燭の電球が描き出す壁の二つの影法師は微動だにせず、家のうちもしんしんと静かで、火鉢の燠の、尉となってはらりと落ちる、そんな音まで聞こえそうな夜であった。

(注:「燠」に「おき」、「尉」に「じょう」のルビ)
宮尾登美子『藏(下)』(角川文庫、H10年、p.182)

「尉」は炭火の白い灰の意。

実は、上巻の途中までなかなか乗れずに、投げだしてしまおうかとも。が、あるところまで来たらページをめくるのももどかしくなっていて、下巻ではまさに「そんな音まで聞こえそう」になっていたらしく、気がついた時には読み終えていたのだった。

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