伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社、2007年)

 「だと思った。」(p.352)

主人公が残したメモへの昔の彼女からの返事。

国家という薄気味悪い相手と闘った(闘わざるをえなかったある凡人のエンタメ大作。凝りすぎは、設定だけじゃもの足りなくなったのか、同字数会話やアイコン付き小見出し(形で現在か過去がわかるようになっている)にまで及ぶ。すごいよ、伊坂幸太郎



相手のスケールを考えると、事件解決とならないのは納得がいく。だから真相究明という爽快さはないのだが、別の充実感に満たされるというわけだ。

でも設定に関してはやり過ぎが目に付く。例えば最後の「たいへんよくできました」は本当に大変よくできているのだけど、「玩具の印鑑のようなものを持」ってたって? 「たいへんよくできました」は、紙切れに走り書き程度でよかったのではないか。エレベーターのボタンを押す癖という伏線があるのだから、それで十分だろう。