2009-09-21から1日間の記事一覧

吉本隆明『私小説は悪に耐えるか』(新潮文庫、車谷長吉『鹽壺の匙』の解説)

私小説が自然主義文学の胎内から生れるについては、その経緯がどんなにいびつであっても、それなりの必然があった。また「私」をめぐる人間関係を描写するかぎり、真実らしさにゆきつくことについて理念にも似た確信もあった。その場所で言えば私小説はひと…

車谷長吉『鹽壺の匙』(新潮文庫、H7年)

詩や小説を書くことは救済の装置であると同時に、一つの悪である。ことにも私小説を鬻ぐことは、いわば女が春を鬻ぐに似たことであて、私はこの二十年余の間、ここに録した文章を書きながら、心にあるむごさを感じつづけて来た。併しにも拘わらず書き続けて…