今、使い捨てにされて苦しむ若者たちが『蟹工船』に共感していると聞き、じーんとします。彼らは「自分さえ勝てばいい」という私たち高度成長期生まれとは違い、優しい世の中を作るでしょう。

しかし同時に暗澹とします。多喜二には共産主義という理想があったけど、今は、信じるに足る「正解」がない。理想は消えたのに地獄だけ復活したのです。
それにしても、多喜二が命がけで信じたあの主義は、なぜダメだったのでしょう。『蟹工船』パワーを浴びた後、現代人はどうすればいいのでしょう。
「わかりにくい」中野の人生に、その一つの回答例があるように予感します。

本が好き!(光文社)2008年11月号、p.101  栗林佐知「映画と本のヨモヤマ話11 借りといて何をいう〜! わかりやすい多喜二、わかりにくい中野」

中野は中野重治で、栗林評は「ちんぷんかんぷん。難解とかではなく、何の話をしているのかわからない」。でも「中野の人生に、その一つの回答例があるように予感し」ているって。

081115-200